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26『新米(しんまい)ギツネ』
2011년 11월 10일 21시 58분
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작성자: 망향
26 『新米(しんまい)ギツネ』
―岡山県―
むかし、ある山ん中の峠(とうげ)にお茶屋があって、お爺(じい)さんとお婆(ばあ)さんが住んでおったそうな。
峠を越(こ)す者は誰(だれ)でも、茶を飲(の)んだり、まんじゅうを食うたりして、そこで一休(ひとやす)みして行ったもんだと。
ある晩げ、もう誰(だあれ)も山越えをする者がおらん時分(じぶん)に、お侍(さむらい)が一人、
「ゆるせ」
言うて、えらそうに、ドスン、ドスンと入って来た。
お婆さんが、
<今頃になってのお侍の客は、厄介(やっかい)なことじゃ>
思いながら、盆(ぼん)に茶を乗せて迎(むか)えてみたら、着物もはかまも立派(りっぱ)なものだし、刀(かたな)も大小ちゃんと差してはいるが、本当の侍とはちょっと違う。何かおかしいそうな。
曲(まが)った腰(こし)をのばして、下から上へ、ゆるゆる見上げてみると、何と、顔には毛がピンピン生えて、あごの先がとんがっとる。耳というたら三角で、ぴんと立っとった。
<あゃあ、このお侍は、尻尾(しっぽ)こそ見えんが、まあんず化けはじめのキツネじゃなあ=
と正体を見破ってしまった。
お婆さんは
<このキツネはまだ新米(しんまい)じゃな。下手(へた)くそじゃわい、化けるのが>
思うたら、おかしくて、おかしくて、吹き出しそうになったけど、横を向いてこらえとったそうな。
片腰(かたごし)をおさえながら奥へ行って
「お爺さんや、こりゃあタヌキじゃろうで。キツネがどがあな様(さま)をするか、ひとつ見てやろうかい」
言うて、内緒話(ないしょばなし)をして見とったら、
「飯(めし)の支度(したく)をしてくれ。夕飯(ゆうめし)がまだすんどらんのじゃ」
と、天井(てんじょう)向いて、いばって言いつける。
「へぇへ。見られるとおりの田舎(いなか)家で、食べてもらえるような物は何もござんせん。茶漬(ちゃづけ)にコウコがあるぐらいのことですが」
言うて、気の毒がってみせたら、侍は、
「そりゃあ、いっこうに構(かま)わんが、ここには油揚(あぶらあ)げはないか。わしは油揚げ」が好きで、あれさえありゃあ、他(ほか)には何もいらん」
言うもんだから、爺さんと婆さんは、
「やっぱりなぁ」
言うて、顔を見合わせて、にんまり笑ったそうな。
「まあ、油揚いいましても、豆腐屋(とうふや)は遠(とお)うて、三里下(さんりしも)にありますんで、買いに行きようもありませんけえ、ごかんべんくださりませ」
言うて、お婆さんが金(かね)だらいに水をいっぱい汲(く)んで、持って行ったそうな。
「おくたびれなったろうから、まあ、水なとお使い下さりませ」
言うて、手拭(てぬぐい)をそえて出したところが、
「そうか、飯食う前には手を洗うんじゃな。ついでに顔も洗うかな」
と、ひょいと下を向いたら、自分の顔が水に映(うつ)っとる。化けそこないの顔が。
「やれ、恥(はず)かしや」
と思うたかどうか知らんが、
「キャン、キャン」
鳴いて、ひとっ跳(と)びに跳んで逃げたそうな。
あくる日、お婆さんが沢へ下(お)りて洗濯(せんたく)しておったら、脇(わき)の木陰(こかげ)から、小っさい声で、
「ババ、ババ」
と呼ぶ者がある。
「誰かいのう、こんなところでわしを呼ぶのは」
思うて、キョロ、キョロ見まわしたが、姿を見せん。
「ババに、何用かいなぁ」
言うたら、木陰で
「ババ、夕べはおかしかったなぁ、あははは…」
言うて笑うもんだから、お婆さんも、
「おう、おかしかったわい、はぁはぁ、はぁ…」
言うて、一緒(いっしょ)に笑うたそうな。
あれを知っとるとは、ゆんべのキツネじゃな、と、お婆さんにはすぐにわかったそうな。
それもそれもひとむかし。
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