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35『猫女房(ねこにょうぼう)』
2011년 11월 10일 22시 04분
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작성자: 망향
35 『猫女房(ねこにょうぼう)』
―岩手県遠野市―
むかし、あるところに一人の貧乏な男と、欲深な長者が隣りあって住んでおったそうな。
ある夜長者は、飼っていた一匹の牝猫(めすねこ)にエサをやるのが惜くなって、首筋をつかんで外へ投げ棄てたと。
猫はニャア、ニャア鳴いて、隣の貧乏な家へ行ったと。
隣といっても、昔の田舎のことだ、ずうっと百米も離れとる。
そこを、とぼら、とぼら歩いて行ったと。
隣の貧乏な男が寝ていると、窓の下で、しきりに猫の鳴き声がする。ふびんに思って、
「こんな夜中に、お前、どうして外で鳴いとるや。また、お前の御主人にひどい目にあわされたのか。どらどら、それならおれのところにいろ」
と言うて、内に入れてやったと。
それからは毎日、なけなしの食べ物を自分と同じように分けて、可愛いがっていたと。
ある夜、男がいつものように猫を懐(ふところ)に入れて寝ながら、
「お前が人間だったらよかったなぁ。おれが畑へ出て働いているうちに、お前は家に留守番していて麦粉でも挽いておいてくれでもしたら、なんぼか暮らし向きが楽になるべえに。お前は畜生のことだから、それもできない相談だなぁ」
と、つぶやいたと。
次の朝、男はまだ星のあるうちから起きて、山の畑へ行って働き、夜にお月さんが出てから家へ戻ったと。
すると、灯(あかり)もつけない家の中で、だれかが挽臼(ひきうす)を、ゴロゴロ挽(ひ)いているものがあった。
「だれだろ」
不審に思って、そおっと入ってみると、何と、猫が挽臼を挽いておった。
「猫、猫、おれが夕(ゆん)べ、あんなことを言うもんだから、お前、挽臼を挽いてくれたか」
と、目を真(ま)ん丸(まる)にしてたまげたと。
男は、いよいよ猫が可愛いくなって、その晩、小麦団子をこしらえて、猫と食うたと。
「お前の挽いた小麦粉で作った団子だ。食え、食え、うんまかろう。おれも今日ほどうんまいと思うたことはないぞ」
言うたら、猫も、
「ニャア、ニャア」
嬉しそうな声を出して食うたと。
それからはいつも、男の留守の間には、猫が挽臼を挽いてくれたと。おかげで男は大層助かったと。 ある晩、囲炉裏の火に当っていると、猫が、
「私はこのまま畜生の姿をしていては、思うように御恩返しが出来ないから、これからお伊勢まいりをして人間になりたい。ついては、どうか暇を下さい」
と言うのだと。
男は、いよいよこれはただの猫ではない、と思うて、猫の言うがままにしてやった。
猫のおかげで少しばかりたまった小銭を、猫の首に結(ゆ)わえつけて旅に出したと。
猫は、途中で悪い犬にも狐にも出会わず、首尾(しゅび)よくお伊勢まいりをしたら、神様が、
「お前のことはわしもつくづく感じ入っておった。お前の願いを叶えてやろう」
こう言われて、猫を人間の美しい娘にしてくれたと。
娘になった猫は、喜んで家に帰って来た。
男と娘は夫婦(めおと)になって、二人で朝星月星を見ながら働いたので、末には隣の長者よりも、分限者となって、一生安楽に暮らしたそうな。
いんつこ もんつこ さかえた。
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