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54『月見草(つきみそう)の嫁(よめ)』
2011년 11월 10일 22시 16분  조회:2746  추천:1  작성자: 망향
54『月見草(つきみそう)の嫁(よめ)』
 
―新潟県―
 
むかし、ある山の村にひとり者の若い馬子(まご)が暮らしておったそうな。
 馬子は、いつも朝早ように起きて山に行き、馬に喰わせる馬草(まぐさ)を刈る。
 草を刈りながら歌う馬子唄は、ほれぼれするほどいい声だったと。
 そうやって刈った草を馬に喰わせてから、お客を乗せたり、荷を運んだりして暮しておった。
 ある晩のこと、
 馬子が一日の仕事を終えて家でひと休みしていると、戸をホトホトと叩くものがあった。
 「はて、こんな山家(やまが)に今頃だれだろ」
 戸を開けると、きれいな、きれいな娘がひとり立っておった。
 「今晩ひと晩、どうか泊めて下さい」
 「俺らとこは、俺ひとりで、お前を泊めるったって、ろくなまんまもしてやらんねすけ」
 「ご飯ぐらい私がします。どうか泊めて下さい」
 「ほうか、ほんならまあ、入(はい)られ」
 馬子が娘を招じ入れると、娘は、掃除はするし、洗濯はするし、出来た晩ご飯のうまいこと、うまいこと。
 「俺ら、明日の朝は早いすけ、おめえの好きな時に出て行っていい」
 そう言って馬子は寝たと。
次の朝、馬子は早ように家を出て、夜遅うに戻って来たら、娘がまだ居たと。
 「おめえ」
 「はい、晩ご飯が出来ています」
というんだと。
 その次の日も、そのまた次の日も娘は出て行かないで、まめまめ働くんだと。
 馬子は、
 「こんなんが俺らの嫁だったら何ぼいいか」
と思うて、娘をじいっと見ていたと。
 そしたら娘が、
 「あなたはひとりもんで不自由でしょうから、どうか私を嫁にして下さい」
と言うた。
 「そうか、ええか、お前がその気なら俺らの嫁になってくれ」
と言うて、その晩から、ふたりは夫婦(ふうふ)になったと。
 ある朝、馬子は、いつものように歌いながら山の草を刈って来て、馬の前に置いてやったと。
 そしたら、その草の中に、きれいな月見草の花が一本混ってあった。
 「おう、こらまた、きれいな花だ。知らずに草と一緒に刈ったんだな」
と、手にとって、
 「おおい、かか、かか、きれいな花があったや」
と呼んだけど、返事がないのだと。
 「おおい、どこ行った」
 あちこち探したら、嫁は、流しの所で朝ご飯を作りかけのまま倒れていたと。
 「おっ、どうした。どこかあんばいでも悪いのか」
と、あわてて抱き起こすと、嫁は細い声を出して、
 「私は、実は月見草の花の精なのです。毎朝、あなたのいい歌声を聞かせてもらっているうちに、嫁になりたいと思うようになりました。その思いが叶って今日まで幸せでした。思いがけず、今朝あなたに刈られてしまいました。私の命もこれまでです。短い間でしたけれど、優しくして下さってありがとう」
 こう言うと、馬子に抱かれた嫁の姿は、だんだんうすくなっていって、やがて消えてしもうたと。
 いきがぽうんとさけた。
 

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