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두자춘(일한번역문)
杜子春(芥川龍之介)
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아우님이 이토록 활약하는 줄 몰랐습니다. 옹근 2년이나 사이트들에서 잠적하다가 돌아오니 아우님이 보이시네. 반갑수다. 이제 우리 만나면 그간 회포를 잘 풀어 봄이 어떠하리오...
곧 《간도빨치산의 노래》전문을 싣도록 하겠습니다. 이 글은 연변문학 2013년 제2기와 제3기에 실렸던 글입니다. 연변문학 2기에 조선글로 된 원문이 실려있습니다.
좋은 글 잘 읽었습니다. 《간도빨치산의 노래》전문은 어디에서 볼수 있습니까? 읽어보고 싶은데요.그때 상황도 더 료해해보고...
참 의미심장한 이야기 입니다.
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26『新米(しんまい)ギツネ』
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2011-11-10
26『新米(しんまい)ギツネ』 ―岡山県― むかし、ある山ん中の峠(とうげ)にお茶屋があって、お爺(じい)さんとお婆(ばあ)さんが住んでおったそうな。 峠を越(こ)す者は誰(だれ)でも、茶を飲(の)んだり、まんじゅうを食うたりして、そこで一休(ひとやす)みして行ったもんだと。 ある晩げ、もう誰(だあれ)も山越えをする者がおらん時分(じぶん)に、お侍(さむらい)が一人、 「ゆるせ」 言うて、えらそうに、ドスン、ドスンと入って来た。 お婆さんが、 <今頃になってのお侍の客は、厄介(やっかい)なことじゃ> 思いながら、盆(ぼん)に茶を乗せて迎(むか)えてみたら、着物もはかまも立派(りっぱ)なものだし、刀(かたな)も大小ちゃんと差してはいるが、本当の侍とはちょっと違う。何かおかしいそうな。 曲(まが)った腰(こし)をのばして、下から上へ、ゆるゆる見上げてみると、何と、顔には毛がピンピン生えて、あごの先がとんがっとる。耳というたら三角で、ぴんと立っとった。 <あゃあ、このお侍は、尻尾(しっぽ)こそ見えんが、まあんず化けはじめのキツネじゃなあ= と正体を見破ってしまった。 お婆さんは <このキツネはまだ新米(しんまい)じゃな。下手(へた)くそじゃわい、化けるのが> 思うたら、おかしくて、おかしくて、吹き出しそうになったけど、横を向いてこらえとったそうな。 片腰(かたごし)をおさえながら奥へ行って 「お爺さんや、こりゃあタヌキじゃろうで。キツネがどがあな様(さま)をするか、ひとつ見てやろうかい」 言うて、内緒話(ないしょばなし)をして見とったら、 「飯(めし)の支度(したく)をしてくれ。夕飯(ゆうめし)がまだすんどらんのじゃ」 と、天井(てんじょう)向いて、いばって言いつける。 「へぇへ。見られるとおりの田舎(いなか)家で、食べてもらえるような物は何もござんせん。茶漬(ちゃづけ)にコウコがあるぐらいのことですが」 言うて、気の毒がってみせたら、侍は、 「そりゃあ、いっこうに構(かま)わんが、ここには油揚(あぶらあ)げはないか。わしは油揚げ」が好きで、あれさえありゃあ、他(ほか)には何もいらん」 言うもんだから、爺さんと婆さんは、 「やっぱりなぁ」 言うて、顔を見合わせて、にんまり笑ったそうな。 「まあ、油揚いいましても、豆腐屋(とうふや)は遠(とお)うて、三里下(さんりしも)にありますんで、買いに行きようもありませんけえ、ごかんべんくださりませ」 言うて、お婆さんが金(かね)だらいに水をいっぱい汲(く)んで、持って行ったそうな。 「おくたびれなったろうから、まあ、水なとお使い下さりませ」 言うて、手拭(てぬぐい)をそえて出したところが、 「そうか、飯食う前には手を洗うんじゃな。ついでに顔も洗うかな」 と、ひょいと下を向いたら、自分の顔が水に映(うつ)っとる。化けそこないの顔が。 「やれ、恥(はず)かしや」 と思うたかどうか知らんが、 「キャン、キャン」 鳴いて、ひとっ跳(と)びに跳んで逃げたそうな。 あくる日、お婆さんが沢へ下(お)りて洗濯(せんたく)しておったら、脇(わき)の木陰(こかげ)から、小っさい声で、 「ババ、ババ」 と呼ぶ者がある。 「誰かいのう、こんなところでわしを呼ぶのは」 思うて、キョロ、キョロ見まわしたが、姿を見せん。 「ババに、何用かいなぁ」 言うたら、木陰で 「ババ、夕べはおかしかったなぁ、あははは…」 言うて笑うもんだから、お婆さんも、 「おう、おかしかったわい、はぁはぁ、はぁ…」 言うて、一緒(いっしょ)に笑うたそうな。 あれを知っとるとは、ゆんべのキツネじゃな、と、お婆さんにはすぐにわかったそうな。 それもそれもひとむかし。
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25
25『彦市(ひこいち)どんとタヌキ』
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2011-11-10
25『彦市(ひこいち)どんとタヌキ』 ―熊本県― むかし、肥後(ひご)の国(くに)、今の熊本の八代(やしろ)というところに、彦市どんという、おもしろい人がおって、 いつも、人をだましたり、からかったりして喜んでおったそうな。 この彦市どんの家の後ろの山に、タヌキが一ぴきおって、これも、人を化かしたり、だましたりして喜んでおったそうな。 ある日のこと、彦市どんが山道を歩いていると、 「彦市どん、彦市どん」 と呼ぶ者がある。 「だれか」 と返事すると、 「おらは、裏山のタヌキだ」 という。 「なにか、用か」 と聞くと、 「おまえは、何が一番恐(こわ)い」 と聞いて来た。 彦市どんは、何をやぶからぼうに、と思ったが、すぐに、ははぁと思って、 「そうだな、やっぱり、まんじゅうだな。まんじゅうのあんこがこわくて、こわくてたまらん」 と返事をしてやった。 すると、その晩、彦市どんの家の窓をドンドンたたく者がある。 彦市どんが窓を開けると、 「そうれ、こわがれ、こわがれ」 という声がして、何か、どんどん家の中に投げ込まれてきた。 見ると、おいしそうなまんじゅうだ。 彦市どんは、昼間のタヌキとの問答(もんどう)を思い出して、 「これはこわい、これはおそろしい、これはたまらん」 そう言いながら、ポンポン投げこまれてくるまんじゅうを、次から次へとほおばって、ムシャムシャ食うてしまった。 タヌキがまんじゅうを投げなくなってしまうと、 「やれ、こわかった」 そう言って、お茶を飲んだと。 この様子を窓から見たタヌキは、彦市どんにだまされたことが分って、くやしくって、くやしくってならない。 仕返しに、彦市どんの田んぼに石をいっぱい投げ込んだそうな。 次の朝、田んぼへ行った彦市どん、すこしもおどろかないで、 「やあ、これはよかった。石ごえ三年といって、これから先三年の間は、この田んぼにはこやしがいらん。たいしたものだ。いや、ありがたい、ありがたい。これが石ではなくて、馬くそだったら、この田はすっかりだめになるところだった」 と、大声で言って喜んで見せたと。 そうしたら、近くの草むらに隠(かく)れて様子を見ていたタヌキは、またまた、くやしくってならない。 その晩のうちに、その田んぼの石をきれいにとり出して、かわりに、馬ふんを、いっぱい投げ入れたと。 彦市どん、いよいよ喜んだそうな。 そりばっかりのばくりゅうどん。
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24『赤神(あかがみ)と黒神(くろがみ)』
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2011-11-10
24『赤神(あかがみ)と黒神(くろがみ)』 ―青森県― むかし、陸奥(むつ)の国(くに)、今の青森県の竜飛(たっぴ)というところに、黒神(くろがみ)という神様(かみさま)が住んでおったと。 そしてまた、竜飛からはるかに離(はな)れた十和田湖(とわだこ)のほとりには、照(て)る日も曇(くも)らすほどの美しい女神(めがみ)が住んでおったと。 黒神は、その女神に恋をしたそうな。 黒神は、毎日、毎日、龍(りゅう)に乗って、女神を訪(たず)ね、 「わしの妻になれ」 と、言うておった。 女神は、いつも、 「もう少し待ってくだされ」 と言うて、確かな返事はしなかった。 一方、羽後(うご)の国、今の秋田県の男鹿半島(おがはんとう)というところには、赤神(あかがみ)という神様が住んでおって、この赤神も十和田湖の女神に恋をしていたそうな。 赤神は、鹿(しか)をお使いにして、毎日、毎日、心優しい手紙を女神に送っていたと。 手紙には、必ず、 「私の妻になってくだされ」 と書いてあった。 女神は赤神にも、いつも、 「もう少し待ってくだされ」 と返事を書いた。 女神はなやんだ。 黒神のたくましさにはあこがれたし、やさしさあふれる赤神にも心ひかれた。 そのうちに、黒神と赤神は、女神のことで争(あらそ)いをおこした。 黒神が、龍を赤神のいる男鹿半島に走らせれば、赤神も、負けじとばかり、鹿を黒神のいる竜飛に走らせる。 龍は、口から火を吹いて鹿を追いはらい、鹿は、たくさんの数(かず)で龍に立ち向かう。 「お前が身をひけ-」 「お前こそあきらめろ-」 と、どちらもゆずらないのだと。 みちのくの神様たちは、岩木山(いわきやま)に登ると、黒神の味方は山の右側に、赤神の味方は山の左側に陣(じん)どって、 「黒神かて-」 「赤神まけるな-」 と、てんでに叫んで応援しておった。 ところが、力の強い黒神の方が勝ちそうだと見たのか、神様たちの七割(ななわり)が右側に集まってしもうた。それで、山の右側が神様たちに踏(ふ)みくずされ、今でも、岩木山は右の方が低くなっているんだと。 さて、黒神と赤神の戦(いくさ)だが、なかなか勝負(しょうぶ)がつかん。 ところが、ある夜のこと、赤神軍の二番大将の鹿が、太陽の沈む夢を見て、その夜のうちに死んでしもうた。 さあ、それを聞いた鹿の赤神軍は、弱気になって総くずれ。あっという間に、龍の黒神軍が男鹿半島めがけて押し寄せてきた。赤神は、 「もうこれまでだ。以後、再び世にあらわれることはないだろう」 というと、岩屋あ(いわや)の中(なか)に身(み)を隠(かく)してしもうた。 喜んだのは黒神だ。急(いそ)いで龍に飛び乗ると女神の住む十和田湖に向った。 ところが、そこには女神はおらんかった。 黒神は、血まなこになって、女神を探した。ようやく女神の居場所を探し当てた。なんと、女神は、赤神の身を隠した岩屋の中にいたのだ。 女神は、最後になって、心優しい赤神を選(えら)んだそうな。 黒神は、怒(いか)りくるった。雲を呼び、雨を降らせて、みちのく一帯(いったい)は大嵐(おおあらし)となった。 あらしの中に立った黒神は、大きく息を吸いこむと、千年分(せんねんぶん)の息(いき)を、一度に 「ブォ-ッ」 と吹きかけた。 そのいきおいで、土地が動き、今の北海道が出来あがったそうな。 とっちばれ。
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23『せなかの赤いかに』
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2011-11-10
23『せなかの赤いかに』 ―神奈川県― むかし、相模(さがみ)の国久根崎村、今の県川崎市に立派な寺があったと。 山門を入ると右側に池があり、その向こうにどっしりしたかねつき堂があった。 朝に夕べに寺の小僧(こぞう)がつく鐘(かね)の音は、多摩川(たまがわ)を越えて、遠く池上(いけがみ)の里までひびいていたそうな。 寺の池には、たくさんのかにや鯉(こい)がくらしていた。 かにや鯉は、寺まいりのくる人が投げてくれるむすびやふをなかよく分けあって、しあわせな毎日をおくっていた。 しかし、このかにや鯉たちにも、こわいものがあった。それは、春になると遠くからやってくる白さぎたちだ。 白さぎ、何十羽(じゅっぱ)とむれをなしてきて、田んぼや川や池にとびおり、あのこわい目で魚やかにを見つけ、あの鋭(するど)い口(くち)ばしでつき殺して、食ってしまう。 田んぼや池の小っちゃな生物(いきもの)は、白さぎを見るとビクビクしていた。 しかし、その白さぎも、この寺だけにはおそって来なかったと。 それは、白さぎの来るのは朝と夕方で、ちょうどそのときには寺の小僧が鐘を鳴らすからだった。 ゴ-ン、ゴ-ン ゴ-ン という響(ひび)きは、白さぎにはうすきみ悪く聞こえたからだ。 池のかにや鯉たちは、鐘つき堂、ほんとにありがたいと思って拝(おが)んでいたと。 ある夏の風の強く吹く夜のこと 寺の近くから出た火事が、寺の炎(ほのお)、今にも、鐘つき堂をおそおうとしていたと。 そのとき、 池の中のかにが、ぞくぞくと穴から這(は)い出して来て、鐘つき堂の屋根(やね)や柱(はしら)によじ登(のぼ)っていった。 かにたちは、口から白いあぶくをいっぱい吹き出して、火の粉(こ)を消そうとした。 が、風にあおられ、勢(いきお)いのついた炎は、かにたちをつぎつぎと焼き殺していった。それでも、かにたちは、火をおそれず、あとから、あとからと新しいかにが鐘つき堂を登っていった。 それは、かにと火の戦争(せんそう)だった。 おそろしかった夜(よ)があけて、静かな朝がおとずれた。 いちめんの焼野原(やけのはら)の中に、鐘つき堂だけがでデンとして残っていた。 しかし、その下には、何千というかにが真っ赤になって死んでいた。 寺の坊さんは、かにたちのために、池のほとりに「かに塚(ずか)」をつくって供養(くよう)した。 それ以来、この池のかにの背中には、火の粉をかぶったように赤くなったそうな。 こんでおしまい チョン チョン。
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22『桃の子太郎』
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2011-11-10
22『桃の子太郎』 ―岡山県― むかし、むかしあるところに爺さんと婆さんがおってな、爺さんは山へ柴刈りに、婆さんは川へ洗濯に行ったそうな。 婆さんが洗濯をしていると、川上から大きな桃が、プックリコウ、スッコッコウと流れてきた。婆さんがそれを拾って食べてみたら、うまかった。それで川上に向って、 「もう一(ひと)つ流れよ、爺さんにあげよう。もう一つ流れよ、爺さんにあげよう」 というと、赤い大きな桃が、また流れてきたそうな。 婆さんは、ひしゃくでひょいとすくうて持って帰ると、戸棚」(とだな)にしまっておいた。 晩方になって、爺さんが、山から柴を背負(せお)って戻った。 「爺さんな、今日、川から、うんまい桃を拾うて来たよって、お食べぇ」 婆さんが桃を出して切ろうとしたら、桃がぽかっと二つに割れて、中から男の子が、「ホホヤア、ホホヤア」と出てきたと。 爺さんと婆さん、びっくりして、 「あいややぁ、こらァ大事(おおごと)だぁ」 ってんで、湯を沸(わ)して産湯(うぶゆ)をつかったり、産着(うぶぎ)を着せたり、大騒ぎ。 「家には子供がなかったのに、思いもかけず子を授かって嬉(うれ)しいことじゃあ。桃から生まれたから、名前を桃太郎にしょうかいの」 って、桃太郎と名付けたと。 爺さんと婆さんは二人して、粥(かゆ)をすすらせたり、魚のすり身を食べさせたりして育てた。 桃太郎は、一杯食べさせれば一杯だけ、二杯食べさせれば二杯だけ、大きくなって、やがて、山仕事も出来るくらい力持ちの子供に育ったと。が、何にもせんで、いつもイロリ端でごろんと寝てばかり。 あるとき、近所の子ぉが、 「桃太郎、桃太郎、山へ木を伐(か)りに行こう」 と誘(さそ)いに来たら、 「今日は縄(なわ)をなわにゃならん」 と言うて、行かん。 爺さんと婆さんが、縄をなってくれるのかと喜んでいると、桃太郎はなんにもしないで、ごろんと横になったまんま。 あくる日は、 「今日は、背な当てを作らにゃならん」 その次の日は、 「わらじのひげをむしらにゃならん」 と言うて、動こうとせん。 爺さんと婆さんが、何ちゅう横着者(おうちゃくもん)かと思っていると、四日目にやっと連れだって山へ行ったそうな。 ところが、桃太郎は昼寝ばっかりして、弁当食べる時起きただけ。 晩方になって、一緒に行った子ぉが、 「もう帰ろうや」 と言うたら、「ワ-」と大あくびをして起きあがり、大っきな木の根っ子へ小便たれると、その木をガボッと引き抜いて、かついで戻った。 「ばあちゃん、もどったよ」 と声がするから出てみたら、置き場所も無い位の大木(たいぼく)だ。 「どこへ置こうか、庭さきへ置こうか」 「庭さきに置きゃぁ、庭がふさがる」 「軒(のき)に立てかけようか」 「軒に立てりゃあ、軒が砕(くだ)ける」 仕方ないから、谷川へポイと投げると、地響(じひび)きがして、山がゴオッと鳴ったと。 夜中になって、殿様の遣(つか)いがやって来た。 「ありゃ、何の音か見て来い」 とのおおせだそうな。 お城へ戻った使いから、桃太郎が大木を引き抜いて谷へ投げた音だと聞いた殿様は、ひざをポンとたたいて、 「そんなに力持ちなら、桃太郎を鬼が島へ鬼退治(おにたいじ)にやろう」 と命(めい)じたと。 爺さんと婆さんは、そんならまあ、日本一のきび団子をこしらえちゃろう、と臼(うす)をゴ-リン、ゴ-リン挽(ひ)いて、大きなきび団子を三つ、こしらえてやった。 桃太郎は、それを腰(こし)に結びつけて勇(いさ)んで出掛けた。 いくがいくがいくと、犬が出て来て、 「桃太郎さん、桃太郎さん、どこ行きなさりゃ?」 「鬼が島へ鬼退治に行く」 「腰につけているのは、何ですりゃ」 「こりゃあ、日本一のきび団子」 「そんなら一つおくれな。お供(とも)するから」 「一つはだめだ。半分やる」 犬は、きび団子を半分もらってついて行ったそうな。今度は猿(さる)が来て、 「桃太郎さん、桃太郎さん、どこ行きなさりゃ」 「鬼が島へ鬼退治に行く」 「腰につけているのは、何だすりゃ」 「こりゃあ、日本一のきび団子」 「そんなら一つおくれな。お供するから」 「一つはだめだ、半分やる」 猿もきび団子をもらってついて行ったら、今度はきじが出て来た。 そこで、きじにもきび団子を半分やって、 桃太郎は、犬、猿、きじを連れて行ったそうな。 鬼が島へ着いてみたら、鬼は、大きな門(もん)をピシャンと閉めて入らせん。 すると、きじが、パァ-と飛んで門を越え、内から門を開けた。 「それ行けぇ」 と、どおっと入って行った。 鬼は、 「何の、桃太郎が何だ」 と、ばかにしてかかって来たが、何しろ、こちらの四人は日本一のきび団子を食べているので千人力(せんにんりき)。 鬼を、片っぱしからやっつけるそうな。 犬は鬼の足にかみつくし、猿はひっかく、きじは顔やら目やらをつっついて、とうとう鬼を負かしてしまった。 鬼の大将(たいしょう)は、 「どうぞ、命ばかりは助けてくりょ。ここにある宝物を全部あげますけぇ」 と、降参(こうさん)したと。 桃太郎は、宝物を荷車(にぐるま)に積んで、犬と猿ときじと、みんなで押したり曳(ひ)いたりして戻ったそうな。 桃太郎は殿様にほめられ、いっぱい褒美(ほうび)をいただいて、爺さんと婆さんに一生安楽させたそうな。 どっとはらい。
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21『朝茶(あさちゃ)は難(なん)のがれ』
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2011-11-10
21『朝茶(あさちゃ)は難(なん)のがれ』 ―栃木県― むかし。 下野(しもつけ)の国(くに)、今の栃木県のある村に、太郎兵ヱ(たろべえ)というお百姓がおった。 ある時、太郎兵ヱは、な-んもしないのに、代官所(だいかんしょ)の役人につかまってしもうた。 何でも、一揆(いっき)をおこそうとした罪(つみ)で、はりつけの刑(けい)にするということだ。 村の衆(しゅう)たちは、 「な-んにもしてねぇのに、太郎兵ヱをはりつけにするとは、ひどすぎるぞ-」 というて、代官所へどっと押しかけた。が、代官所では、門(もん)も開けてくれん。 村のみんなは、何日も何日も門の前で、 「どうか、太郎兵ヱの命を助けてやってくだされ-」 と、お願いをしたが、門の中からは何の答えも返ってこなかった。 とうとう、太郎兵ヱがはりつけの刑を受ける日の朝となった。 村の衆たちが、もはやこれまで、と思うていると、突然(とつぜん)、代官所の中から、 「開門(かいもん)!」 という、大きな声が聞こえて来た。 ギギ-、 門が開くと、白はちまきにたすきがけの役人が馬に乗ってあらわれた。 その役人は、門の前にいる村の衆に、 「太郎兵ヱは、無事と相(あい)わかった。これから処刑(しょけい)を止(や)めさせに行く」 と言うと、馬にひとムチ当て、「それっ!」とばかりに、処刑場へ向かって馬を走らせた。 門の前にいた村の衆は、口々(くちぐち)に、 「よかった」「よかった」 と小踊(こおど)りして、馬のあとを追いかけた。 ちょうどそのころ、太郎兵ヱは、捕らえられている場所から、処刑場へ向かおうとしているところだった。 見張りの役人が、太郎兵ヱをかわいそうに思ったのか、 「朝の茶でも、いっぱいのまんか」 と言うた。 しかし、太郎兵ヱは、 「いや、おれはじきに殺されるんだから、茶なんかいらん。早く連(つ)れていってくれ」 といい捨てた。 太郎兵ヱは処刑場に引き出されて行った。 早馬に乗った役人は、ムチを、ビシッ、ビシッと打ち、処刑場にかけつけていた。やがて、処刑場が見えたとき、 「そのはりつけ、やめ-い。はりつけ、やめ-い」 と、大声で叫んだ。 ところが、処刑場にいた役人は、その声を 「つけ-、つけ-」 と聞いたもんだから、あわてて、 「それ-っ、はじめ-」 と合図をした。 太郎兵ヱは、槍(やり)でつかれて殺されてしもうた。 処刑場にいた人々は、早馬で駆け込んで来た役人から、太郎兵ヱが無実の罪であったことを聞かされた。 見張りの役人は、 「ほんのちょっとの差で間に合わなんだか、朝、わしがすすめたお茶さえ飲んでおれば、死なずにすんだものを…」 と、悔(くや)んだと。 こんなことがあってから、”朝のお茶はその日の難(なん)をのがれる”と言うて、人にすすめられたら、必ず飲むもんだと。 市(いち)がさけた。
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20
20『大(おお)アワビの怒(いか)り』
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2011-11-10
20『大(おお)アワビの怒(いか)り』 ―千葉県― 昔、上総(かずさ)の国(くに)、今の千葉県浪花村(なみはなむら)という海辺の村に伝わるお話。 この村の海の沖には、なんと傘を広げたほどの、それは大きなアワビがおったそうな。 この大アワビを怒(おこ)らせると、たちまち大嵐を起こすと言い伝えられており、漁師たちは恐(こわ)がって、誰一人としてその近くで漁をする者はおらなんだ。 ところが、ある日のこと、一人の若い海女(あま)が、ふとしたことから、この大アワビを怒らせてしまった。 にわかに、空に黒い雲が垂れこめたかと思うと、たちまち激(はげ)しい雨となって、海は大荒れとなった。 沖へ漁に出ようとしていた漁師たちは、あわてて船を浜へ曳きあげ、嵐のやむのを待っておった。そこへ海女たちもやってきた。 「お前たちの中で、誰か、あのアワビを怒らせた者がおるじゃろ」 若い海女は、「私です」とは言えず黙っておった。 「ま、仕方あんめえ、今日は漁をあきらめてのんびりしょうか」 漁師も海女も、みな、海辺の小屋に集まって、酒を飲んだり、歌を唄ったりした。 その場で、若い海女は、漁師のうちの一人を好きになったと。 次の日、海はおだやかだった。 漁師たちも、海女たちも、朝早くから海へ出た。 若い海女も海へ潜って貝をとっていたが、昨日の漁師のことを思うと、会いたくて、会いたくて、仕事が手につかん。 「そうだわ、嵐になれば、また海辺の小屋で、あの人に会えるかも知れない」 こう思って、大アワビのいる沖へ行き、大きな石を投げ込んだ。 海は、荒れに荒れた。 大あわてで浜に戻った漁師たちや海女たちは、うらめしそうに沖の方を見ておった。 「あの人は、きっといるに違いない」 若い海女は、胸をときめかせて、海辺の小屋へ向った。 が、ちょうどその頃、漁師は、ずっと沖あいで、山のような三角波とひっしで戦っておった。海は猛(たけ)り狂い、これまでにない、そりゃあえらい大嵐だったと。 小屋に着いた若い海女は、他の漁師から、あの漁師がまだ沖にいることを知らされた。 「しまった、このままではあの人は帰れない。大アワビ様、お願いです。どうかこの嵐を鎮(しず)めて下さい」 と沖に向って手を合わせたが、 海は鎮まるどころか、ますます荒れ狂った。 若い海女は、気も狂わんばかりに夢中で海へ飛び込んだ。高波にもまれながら必死で泳いだ。そして、やっとの思いで漁師の船が波の間に見え隠れするところまで近づいた時には、もう泳ぐ力も、浮いている力も残っていなかった。 「ごめんなさぁいぃ」 と叫んで、海の底深く沈んでいった。 それから何日かたち、やっと大嵐はおさまったが、若い海女はむろんのこと、あの漁師も、とうとう浜には戻って来なかったそうな。
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19
19『赤(あか)マントやろかー』
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2011-11-10
19『赤(あか)マントやろかー』 ―東京― 創立何十年もたつという古い学校には、必ず、一(ひと)つや二(ふた)つの、こわーい話が伝わっている。中でも多いのが、便所にまつわる怪談だ。今日は、一つ、こわーい話をしてみよう。 ちょっと昔のこと。 ある女子(じょし)高等学校で、生徒用便所に妙なうわさがたった。 入口から三番目の便所に入ると、 「赤いマントやろかー、青いマントやろかー」という声が聞こえるという。 そんなわけで、だーれも三番目の便所に入るものがいなくなってしまった。 掃除の生徒も、ここだけは気味悪がって手をつけない。三番目の便所は、いつしかほこりだらけの荒放題となった。 あるクラスで、何人かの生徒がこの便所のうわさをしていた。 すると、一人の生徒が、 「この世の中にお化けが出るはずがないじゃない。私が行ってお化けの正体を見てくるわ」 といった。クラスメイトたちは、 「本当にお化けの声がするんだから、やめなさいよ」 と、しきりにとめた。 しかし、勝気なその女生徒は、 「大丈夫よ」 と言い残して、スタスタ、便所へ向って行った。クラスメイトたちは心配になり、そっと後をつけて行った。 女生徒は、便所に着くと三番目の戸を開けて、中へ入った。 すると、案の定、 「赤いマントやろかー、青いマントやろかー」 という声がした。 女生徒は返事をしなかった。そしたら、また、 「赤いマントやろかー、青いマントやろかー」 という。 段々こわくなって返事どころでない。便所の壁に張りついて、歯をガチガチいわしていると、今度は、大きい声で、 「赤いマントやろかー、青いマントやろかー」 といった。女性と生徒は、目をつぶって、 「赤いマントよこせー」 と怒鳴(どな)った。そのあとすぐに、 「ギャー」 と叫び声をあげた。 便所の入り口で見守っていたクラスメイトたちは、一目散に逃げ出した。 事の次第を聞いた体操の男先生が、便所へ行って三番目の戸を開けた。便所の中で女生徒は死んでいた。 背中にナイフが刺さり、血がべっとりと着いて、まるで、赤マントをつけているようであった。 それから、その三番目の便所は釘づけにされ、「あかずの便所」といわれるようになった。 もし、「青いマントよこせー」と言ったら、血が全部吸いとられ、身体中、青くなってしまうのだそうな。
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18
18『タクシ―に乗(の)った女(おんな)』
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2011-11-10
18『タクシ―に乗(の)った女(おんな)』 ―北海道・札幌― これは、本当にあったお話。 ある暑い夏の夜のこと、一台のタクシ―が、国立(こくりつ)中央病院の前で、若い女の客を乗せた。 運転手が、 「どちらまで行きますか」 とたずねると、花柄のワンピ―スを着たその女は、小さな声で、 「吉田町(よしだちょう)」 といった。 暫(しば)らくして、運転手は、 「今日は、むし暑いですね」 と話かけたが、女は何も答えない。 <妙(みょう)な客だなぁ> と思いながら、バックミラ―をのぞくと、女の顔が血の気を失なったように青白く映っている。 「お客さん、気分でも悪いんですか」 と、問いかけると、女は、 「いいえ」 と言ったきり、後は何も言わない。運転手は薄気味悪くなって、その後黙(あとだま)って車を走らせた。ようやく、吉田町に入った。 「そこで停めてください」 運転手は車を停めた。 「すみません。お金が無いので、ちょっとここで待っていてください」 女は、車からおりると、すぐ前の家に入って行った。 運転手は一服して待っていたが、なかなか女は戻って来ない。五分たっても女は来ない。 運転手は、女の入った家に行ってみた。 「今晩は・・・」 中から、五十過ぎの女性が出て来た。 「なんでしょうか」 「はぁ、少し前にお宅に入った女の人を呼んでもらえますか。実は、タクシ―料金を未だ頂いていないのです」 その女性は、けげんそうな顔をして、 「どんな人ですか」 と、いぶかった。 「若い、二十(はたち)くらいのひとで、花柄のワンピ―スを着ていました」 運転手が説明すると 「えっ!!」と驚きの声をあげ、 「ちょっと、こちらへ来てくれますか」 と、座敷へ案内した。 今度は、運転手が魂消た。座敷には祭壇が飾られ、黒ワクの写真には、花柄の洋服を着た若い女性が、にっこりと微笑んでいる。 「こ、この人です。病院から乗せて来たのは」 「そうですか、これは私の娘です。昼間、中央病院で息を引きとりました。今夜はお通夜(つや)なのです。きっと、娘の魂が家に帰りたくて、タクシ―に乗せていただいたのでしょう」 母親は涙ながらにこう言った。 これは、本当にあった話だよ。
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17『お菊(きく)ののろい』
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2011-11-10
17『お菊(きく)ののろい』 ―群馬県― むかし、上州(じょうしゅう)、今の群馬県沼田(ぐんまけんぬまた)というところに、小幡上総介(おばたかずさのすけ)という侍(さむらい)がおったそうな。 疑い深く、短気な男だったが、お菊(きく)という美しい女中だけは気に入っておった。 ある朝、上総介(かざさのすけ)が、お菊の給仕(きゅうじ)で朝ご飯を食べようとしたとき、ご飯の中に、何やら、キラリと光るものがあった。箸でつまみ出してみると、何と、それは一本の縫(ぬ)い針だった。 上総介は、怒(いか)りでからだをふるわせ、お菊につかみかかって問(と)いただした。 「この恩知(おんし)らずめ! よくもわしを殺そうとしたな。どうしてこんなことをしたのじゃ」 まるで身に覚えのないお菊は、主人のものすごい剣幕におびえて、ただひれふすばかり。 めちゃくちゃに殴(なぐ)りつける上総介を、奥方がおもしろそうに見ておった。そればかりか、 「この女は、もともと根性の曲った強情者。そんな仕置(しおき)き位では、白状しますまい。どうです、蛇責(へびぜ)めになさっては」 と、けしかけた。 お菊は裸にされて、風呂の中に、たくさんの蛇と一緒に投げこまれたそうな。 風呂に水が入れられ、かまどに火がつけられた。水はどんどん熱くなり、蛇は苦しまぎれにお菊にかみついた。 地獄の苦しみの中で、お菊は、 「このうらみ、死んでもはらしてくれようぞ」 と、言い残して、ついに死んでしまったと。 それから何日か経(た)って、奥方は、体中(からだじゅう)針で刺される様な痛みをおぼえ、寝こんでしまった。 医者にもまるで原因がわからず、手のほどこし様がなかった。 くる日も、くる日も苦しんだすえに、 「お菊、許しておくれ、針を入れたのはこの私じゃ。上総介に可愛がられるお前が憎くかったのじゃ」 と言うと、そのまま息絶えたそうな。 上総介は真実を知り、後悔したがあとのまつり。 その夜から、上総介の屋敷にお菊の幽霊が出るようになった。 毎夜、毎夜のこととて、家来や女中達は怖がって、皆逃げてしまった。 一人きりになった上総介のところへ、お菊の幽霊は昼となく、夜となく現われて、 「うらめしや―」 と、本当にうらめしそうに言うのだそうな。 上総介は、とうとう気が狂って死んでしまったと。 その後、小幡家の人々によって、お菊のためにお宮が建てられ、それからは、お菊の幽霊は現われなくなったそうな。
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16
16『彦左(ひこざ)と河童(かっぱ)』
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2011-11-10
16『彦左(ひこざ)と河童(かっぱ)』 ―和歌山県― むかし、瀬戸(せと)に彦左という力のめっぽう強い男がおった。 ある夏の日、古池(ふるいけ)という大きな溜池の下手(しもて)にあるたんぼで一日じゅう草取りをして、日が暮れかかったので家に帰ろうとしていると、 「おっちゃん、おっちゃん」 と、声を掛けるものがある。 だれだろうと思って、振り返ると、田のあぜに河童が立っておる。海に住む河童が陸(おか)に上がってきたらしい。 「何か用か」 と、いうと、 「おっちゃん、相撲とろう」 との返事。 力自慢の彦左のことだから、いつもなら、 「おお、いっちょうやろうか」と受けてたつところだが、このときばかりは晩ご飯前で腹を空かせておったので、「こんなたんぼの中ではやりにくい。どうせやるからには白良浜(しららはま)へ行って、広いところでやろう」 と、いって、白良浜まで連れて行くことにした。 彦左は途中で自分の家へ寄って、急いで仏壇に供えてあるご飯を食って腹ごしらえをした。仏壇に供えたご飯を食うと力が出て河童に尻を抜かれないと昔からいわれておるからだ。 さて、白良浜へ着いた彦左と河童はがっぷり四つに組んだ。力はまったく互角。長い長い勝負になった。 あまり長びいたので、さすがの彦左もふらふら。仏壇のご飯を食ってこなければとっくに負けている。 一方、河童の方も力をこめて動くたびに頭のてっぺんから水が飛び出して、だんだん力が弱くなり、とうとう彦左に投げられてしもた。 いやというほど腰を打ちつけ動けなくなっている河童の首筋を押さえつけて、彦左はこういった。 「どうだ、思い知ったか。これからは陸(おか)へ上がってきてはならんぞ。もし万が一、この白良浜が黒くなり、沖の四双島(しそじま)に松が生えたら、そのときに上がってこい」 河童は小さくなって海へ逃げ帰ったが、次の日から大仕事をはじめた。 河童は白良浜に墨を塗り、四双島に松の苗木を植えはじめたんだ。 瀬戸鉛山村(せとかなやまむら)の人たちはびっくりしたが、彦左は平気の平左、別に恐れもせず、ただニタニタと笑っておった。 何日かたって、白良浜がやや黒っぽくなり四双島に松の苗木が植わったころ、大波がきて、これらをすっかり洗い流してしもた。 何回やっても、何回やっても同じこと。 とうとう河童はあきらめて、瀬戸鉛山の地には寄りつかなくたったんだと。 もうそんだけ。
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15『因幡(いなば)の白兎(しろうさぎ)』
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2011-11-10
15『因幡(いなば)の白兎(しろうさぎ)』 ―山形県― 昔々、因幡(いなば)の国に白い兎がいたそうな。 毎日浜辺にやって来ては、 「何とかして、海渡って向こう岸さ行ってみてえなあ。んだげんども俺(お)ら泳がんねえし、海には何がいるか分(わ)がんねえから、途中で殺されっかわかんね。何とか無事に向こうさ行ぐ工夫ないべか」 と思って、ため息ついていたそうな。 そしたら、あるとき、ええこと考え浮んだ。 ワニザメを並べて、その背中の上のを行くといいって。 「んだら」 っていう分けで、ワニザメに相談したと。 「ワニザメ君、ワニザメ君、海のお前の数が多いか、陸(おか)の兎の数が多いか、位べっこすんべ」 「どうやってだ」 「お前だち海さ並んでみろ。おれ、一匹一匹勘定して行くから。勘定し終ったら向こうで兎ばみな集めるから。ほしたらお前が勘定すればええ。数が多い方が勝ちだ」 「わがった。ええがんべ」 っていう分けで、ワニザメは仲間みんなに声掛けて、こっちの岸から向こうの岸まで、ずらあっと並んだと。 「さあ、数えれや」 「ようし、行くぞぉ」 白い兎は得意になって、ワニザメの背中をピョンコ、ピョンコ跳ねて向こう岸まで行ったと。 いま一歩で陸さ上がるっていうとき、嬉しくなって、 「おれにだまされているとも知らず、こうして並んでくれてありがとうよ。おれ、数なの、白兎なの集める気なの何もないなだ。お前だちの背中渡って、向こう岸さ来たくってこういうこと言ったんだ」 って、つい言ってしまったと。 それを聞いた最後のワニザメは、怒って、白い兎をガブリッってくわえて、皮をはいでしまったんだと。 白い兎は、痛くて痛くて何とも仕様がないのだと。 泣いていると、そこへ神様が大勢通りかかって、 「これ兎、どうした」 「こういうわけで…」 「ああそうか、それは可哀そうに、それではお前、海の水に入れ。そうしたら、たちまち毛がはえる」 って言ったと。 白い兎が海の水に入ったら、 「痛てててて…」 って、塩水がしみて、ビリビリ、ビリビリ、ってもっともっと痛くなったと。 こらえ切れずにギャン ギャン泣いていたら、袋を担いた神様が通りかかったと。 その神様は親切で、 「お前、ほだらことしてもだめだ。きれいな真水(まみず)で洗って、して、蒲(がま)の穂(ほ)さ転がれ、んだどええから」 って、教えてくれたと。 白い兎がその通りにしたら、やっと元の白い兎になったと。 どんぴんからりん、すっからりん。
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14『夜(よる)の蜘蛛(くも)』
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2011-11-10
14『夜(よる)の蜘蛛(くも)』 ―愛知県― 昔、あるところに若い男が住んでいたに。 そろそろ嫁にもらう年頃になっても、いっこうあわてない。村の年寄りたちが若者に聞くとな、 「わしゃぁのん、嫁には注文があるじゃに」 と言う。 「注文いうて、どげな注文ぞん」 「まず、器量(きりょう)がようて、なんにも食べず、よく働く女房がええ」 「馬鹿(ばか)こけや」 年寄りたちはあきれて、もうその話はせんようになったぞん。 ところが、ようしたもんで、二、三日まえから、若者の家に、美しい女がいるようだん。 ある夜に、道に迷ったとか言うて、若者の家に来たまんま居ついてしまったものらしか。 器量はよし、働き者で、物も食べぬちゅう望み通りの女で、若者は有頂天(うちょうてん)の真っ最中であるらしか。 「わけのわからん者もらいくさって、今にろくなこたあねえぞん。ええからほっとけ」 と、年寄りたちはブツクサ言っとったが、若者の方は、知ったこっちゃねぇに。 今日は、女房の里へ顔を出すのだ言うて、女房のあとついて、山道を登って行った。 ずいぶん来たところで、若者は急に腹が痛み出したと。 「もうひと息じゃ、わしの背中におぶさったらええに」 と言うなり、若者を抱き起こし、ヒョイと背中へ乗せてしもうたとな。 腹の痛みも、少しゃ良うなり、女房の背のぬくもりが気持よくて、若者はウトウトしだしたと。 どこやら、暗い山の中を、女房はスタスタ歩いているらしいがのん。 そのうちハッと気がつくと、女房は、若者を草の上に降ろし、自分も一服(いっぷく)しとる様子じゃ。若者が女房をねぎらおうと声を掛けようとしたとき、女房が突然大きな声出して、 「お―い、捕(と)ってきたぞお、みんなこいやぁ」 これを聞いて、若者は驚ろいたもんな。 「さてはこの女、魔性(ましょう)のもんだったかん、えれえことになったぞん」 そこで女房のすきを見て、そばにある菖蒲(しょうぶ)と蓮(はす)の生い茂る草ぼらへ飛び込んで、身を伏せたと。 こわごわのぞいてみると、大きな蛇の姿に変わった女房のまわりへ、大小の蛇が目を輝かせ、ウヨウヨ集まってきたじゃ。 「どうした獲物(えもの)が見えんぞ」 「しまった、うっかりしとって、逃がした」 「どうする」 「今夜、みんなで捕りに行こうや」 これを聞いて若者は、ころげるように山道走って、やっと村へ戻ったと。 若者からわけ聞いた村人たちは、若者の家の前でたき火たきながら、手に手に光物構えて、蛇の襲撃(しゅうげき)を待っとったと。 すると突然、空から大きな蜘蛛(くも)が、若者の前へスルスルと降りてきた。 脚(あし)をひろげ、若者に飛びかかろうとする前に、若者は、そばにあった箒(ほうき)で、蜘蛛をたき火の中へたたき落としたに。 なんとこの大蜘蛛は、数十匹の蛇に変わり、たき火の煙と炎に巻かれて、みんな死んでしまったぞん。 蛇が蜘蛛に化けて、やってきただに。 このことがあってから、 「夜の蜘蛛は親に似ていても、きっと殺せ」 と、言うようになったぞん。 また、この日が五月五日だったので、それ以来、五月五日には、魔性のものを近づけない菖蒲と蓮に葉を、必ず屋根の上に乗せておくと。
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13『人消(ひとけ)し草(ぐさ)』
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2011-11-10
13『人消(ひとけ)し草(ぐさ)』 ―大分県― むかし、むかし。 あるところに、爺さまと婆さまが住んでおった。爺さまが隣村へ用たしに行った帰り、山道を歩いていると、むこうから一人の旅人がやってきた。 そうしたら、突然道のわきから、ザザザッ―と大きな蛇(へび)が現われて、あっという間にその旅人を飲み込んでしもうた。 爺さまは驚(おどろ)いた。 <これが噂(うわさ)の人喰(ひとく)い蛇か。おとろしい、おとろしい> と思うて、木陰に隠れると、じっと様子を見ていた。 人喰い蛇は、人を飲み込んだもんだから、腹をでっこうして、ウンウンうなって、もがいている。そのうちに、ノタリノタリと動き出して、道のそばにはえている草をムシャムシャ食べ始めた。すると、蛇の腹がだんだんちいそうなっていく。やがて、元の通りの腹になると、気持ちよさそうに、スルスルとやまの奥へ入って行った。 しばらくして、爺さまは、もう蛇はおらんだろうと、さっき蛇が食べていた草を見に行った。それは、今までに見たこともない、青々とした草だった。 <これを食えば、腹の中のものはみんなとけて、元の通りになるのか> と思うて、その草を根っこごと抜いて、家へ持って帰った。 その晩、爺さまは人喰い蛇と不思議な草のことを、婆さまに話して、大好物のソバを沢山作らせた。爺さまは、ソバができ上ると、どんどんどんどんすすりこんだ。 あんまり沢山食べるので、婆さまが心配をして、 「爺さま、いいかげんにせいよ」 というても、 「心配いらん。いくら食べても、この草があるから大丈夫だ」 というて、いうことをきかん。とうとう、十人分のソバを一人で食べてしもうた。 腹でっこうした爺さまは、青い草を取り出して、蛇と同じようにムシャムシャ食べ始めた。そうしたら、急に寝むくなってきたので、爺さまは、そのまま布団(ふとん)にもぐり込むと、ぐっすり寝こんでしもうた。 次の日、日が高くなっても、爺さまは起きてこない。それで婆さまが、 「爺さま、もう起きろや」 というて、布団をめくると、爺さまの着物だけがあった。 <おかしいなぁ―> と、着物をとってみたら、なんと、寝床の上には、ソバが山盛りになっていた。 蛇が食べていた草は、”人消し草”というて、ひとの体をとかす草だったそうな。だから、人が食べれば、体がとけてしまうので、爺さまもとけてしまったというわけさ。 もうし、もうし、米ん団子
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12『白米城(はくまいじょう)』
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2011-11-10
12『白米城(はくまいじょう)』 ―青森県― むかし、戦国の世には、日本のあちこちでいくさがあった。力の強い者が力の弱い者をほろぼして、自分の領土をどんどん広げていった。だけれども、力は弱くても、山の上の城を持っていれば、なかなか、いくさには負けなかった。どこから敵が来てもすぐに分かるし、矢を射たり、石を投げつけたりして、防ぐことができる。 陸奥(むつ)の国、青森県に、大茂城(だいもじょう)という山城(やましろ)があった。あるとき、隣りの国の南部(なんぶ)弥太郎(やたろう)が大軍でせめてきた。それでも大茂城では、山の地形を利用して、南部勢(なんぶぜい)を防いでいた。ところが、山の上にある城だから、井戸の水がでない。おまけに、ここのところ雨も降らなかったから大変だ。何日も城にたてこもっているうちに、城に蓄(たくわ)えてあった水も、だんだん無くなっていった。 それを知っている南部勢は、 「水が無くなれば、我(わが)軍の勝利だ」 といいあい、城を遠まきにして見守っていた。 ある日のこと、南部の見張りが大茂城の様子をうかがっていると、不思議なことが起った。水が無いと思っていた大茂城では、ザァーザァーザァーと水をぶっかけては馬を洗っている。見張りがさっそく、南部の殿様に報告すると、殿様は考え込んでしまった。 「うーん、敵に水さえ無くなれば、いっきに勢めほろぼすつもりであったが、水で馬を洗うとは、きっとどこかに水の出る所があるに違いない」 しかたなし、城を勢め落すのをあきらめ、引きあげようとしたとき、一人の老婆に出会った。南部の殿様は、 「これ、これ、大茂城には、どこか水の出るところがあるのか」 と聞いてみた。老婆は、 「いーや、あの城には水の出る所などありゃぁせん」 「でも、城の中では、水で馬を洗うておるというではないか」 老婆は、ハッハッハッハッと高く笑うと、 「ようく見なされ、あれは水ではなく、白米じゃ。雀(すずめ)がチョコチョコついばんでいるのが何よりのあかしじゃ、馬を白米で洗うて、水のように見せかけているわけじゃよ」 南部の殿様は、老婆のことばにハッとした。 「そうだったのか、うまうまとだまされるところであった」 というが早いか、大声で、 「ものどもー、よーく聞け、大茂城には水が無いぞー。相手は弱っている。今こそ、あの城をせめおとせーー」 と、号令をかけた。殿様のことばに勢いづいた南部の軍勢は、それーっとばかり、大茂城へ押しよせた。 水が無くて身体が弱りきっていた大茂城の軍勢は、戦う気力など、ありゃぁせん。あっという間に大茂城は落ちてしまった。 それからというもの、城の秘密(ひみつ)を教えてしまった老婆の家では、皆、早死にをするようになった。 人々は大茂城で死んだ者達のたたりだろうとうわさしたと
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11『比良(ひら)の八荒(はっこう)』
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2011-11-10
11『比良(ひら)の八荒(はっこう)』 ―滋賀県― 三月も下旬になるちきまって、滋賀(しが)の琵琶湖(びわこ)のあたりでは、比良(ひら)の山(やま)から、ビュ―、ビュ―と風が吹き荒れる。この風を「比良八荒(ひらはっこう)」というのだが、土地の人々は、「比良八荒」が吹くと、湖に沈んだ心やさしい、娘の悲しい物語を思い出す。 むかし、琵琶湖に近い比良の山では、沢山(たくさん)の坊さまが修行をしていた。ある日のこと、一人の若い坊さまは、修行のため、病いをおして湖の対岸に渡った。そして、村々を廻り歩き、たくはつをしていたのだが、ちょうど木の浜の村に入ったとき、熱高く、一歩も動けず、道端(みちばた)にうずくまってしまった。そこを通りかかった村の娘お光は、坊さまを家に運び、休ませた。 高い熱が何日も続いたが、お光の手厚い看病(かんびょう)の甲斐(かい)があって、一日一日薄皮をはぐように坊さまの病いは良くなっていった。いつしらず、お光のこころには、坊さまへのほのかな恋心がわいてきた。 「長い間ごやっかいになりました。おかげで病もすっかり良くなりましたので、比良の寺に戻ります。この御恩(ごおん)は決して忘れません」 坊さまのことばに、お光は泣いた。 「お別れしたくありません」 お光の優しい心を知っている坊さまも同じ思いであった。修行をとるか、恋をとるか、坊さまは迷いに迷った。しばらくして、坊さまは、 「わたしは比良に帰ってから堅田(かただ)の満月寺にこもり、百日の修行をいたします。その百日の間、湖を渡って毎夜、わたしのもとへ通い続けることができたなら、あなたと夫婦(めおと)になりましょう」 といった。 坊さまが帰ってから後、お光は毎夜、タライ舟をこいで湖を渡った。月の無い夜の湖は暗い。浮見(うきみ)堂の灯りが目印であった。十日、二十日と過ぎてゆく。お光は修行を続ける坊さまの後ろ姿をそっと拝んではまた湖を帰っていった。 八十日、九十日が過ぎる。雨の日も、風の日も、雪の日も、お光はタライ舟をこいだ。坊さまはだんだん恐(おそ)ろしくなってきた。この暗い湖をたった一人、タライ舟をこいで、何十日も欠かさず通ってくる女に、鬼がとりついているのではないかと、恐ろしくなった。 とうとう百日目がやってきた。お光の心はおどった。 「今日が坊さまと約束をした百日目」 そう思うと、うれしくてうれしくて、タライ舟こぐ手もかろやかだった。 一方、坊さまは、 「今日で百日目、これは、ただの女ではない。鬼だ」 と思い。目印の浮見堂の灯りを、フッと消してしまった。急に灯りが消えたので、あたりは真暗になり、お光は途方にくれた。それでも一生懸命舟をこいだ。湖の上をさまよっているうちに、風も出てきた。思う間もなく、ビュ―という一陣の風が吹き、とうとう小さなタライ舟は湖にのまれた。お光は、 「お坊さま――」 と一声さけぶと、湖底に沈んでいった。もうすぐ春がくる、三月の末のことであった。 それからというもの、毎年、三月の下旬になると、比良の山から風が吹き、湖があれるようになった。 人々は、お光の怨みで風が吹くのだと言い伝えている。
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10『踵太郎(あくとたろう)と山姥(やまんば)』
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2011-11-10
10『踵太郎(あくとたろう)と山姥(やまんば)』 ―青森県― 昔、ある山陰(やまかげ)の崖(がけ)に小さな小屋を建てて山姥(やまんば)が棲(す)んでいたそうな。 山から里にやって来ては、酒を出せ、肴(さかな)を出せと、家ごとに叫んで歩いていたと。 そのころ里に若夫婦がおったと。 嫁のお腹(なか)には赤ちゃんが育っていたと。 あるとき、夫は町に買い出しに行くことになった。 「山姥がこわいから、わたしもつれてってけへ」 「外は雪コ降ってるだば、転んだり冷えたりしたら腹(はら)の赤児(ややこ)にさわるじゃあ。山姥ぁ、今日は来ねと思うはで」 「したどもぉ」 「そんなに心配だば、お前を長持の中に入れて錠(じょうをおろして高いどこに吊(つ)るしておくはで、おとなしくしてへや」 と、嫁を天井の張りにつるして出掛けて行ったと。 ところが、夕暮れになって山姥がやって来たと。 「お父(ど)さいたかぁ」「お母(が)さいたかぁ」 「酒コ出せぇ」「肴コ出せぇ」 と言うんだと。 嫁は、天井の長持の中で息をひそめて震(ふる)えておったと。 「どごに隠れだぁ」 と怒鳴りながら、嫁の箪笥(たんす)の上から針箱を取って炉(ろ)の中へ投げ込んだと。 すると針箱の中の針が火の中からピタンと音をたてて跳(と)んでいって、天井の長持に矢のように刺さった。 「あすこだなぁ」 山姥は、土間に置いてあった鎌を握ると、吊り縄めがけて、ひょいと投げつけた。長持はどたぁと落っこちたと。 それから鉈(なた)で打ち割って、嫁をつかみ出して頭からみりみり食ったと。 夫が夜遅く帰って来たら、家の中がひっ散らかっていて、炉辺に嫁の踵(かかと)が転がっていたと。 嫁もお腹の赤児も食われ、踵だけがシナくって堅くって食い残したんだと。 夫は弱かったんで、ただ山姥を呪(のろ)っていたと。山姥の食い残した踵を紙袋に入れて仏壇に飾(かざ)り毎日念仏を唱えていたと。 そしたらある日、その袋がかさこそ音がした。袋の中をのぞくと、踵がまん中から割れて男の子が生まれていたと。 喜んだ夫は、その子が踵から生まれたので踵太郎(あくとたろう)と名付けて大事に育てたと。 一杯食わせると一杯だけ、二杯食わせると二杯だけ、三杯食わせると三杯だけ大きくなった。こうして、いつの間にか二十才(はたち)になったと。 踵太郎は、お父うからお母ぁが山姥に食われたことを聞かされていたので、二十才になると山姥退治に出掛けることにしていた。 ある冬の寒い日に、踵太郎は平(ひら)たい石と菜種油(なたねあぶら)と太い縄とを持って、山姥の棲んでいる山陰に出掛けていった。何気ない様(さま)をよそおって、小屋に入れてもらったと。 で、山姥の好きな餅を焼くふりをして、平たい石をホドの中にくべ、自在鉤(じざいかぎ)にかかっている鍋に菜種油をそそいで火に温(ぬく)めたと。 「ばあ、餅が焼けたはで」 「手がふさがっとるはで、食わしてけへや」 山姥が口を開けたところへ、「今だ!」と、まっ赤に焼けた平たい石を口の中にほうり込んだ。 「あぢぢ あぢぢ」 山姥は腹をかかえて転げまわった。 そこへ煮立った油をかぶせると、さすがの山姥もぐったりしたと。 踵太郎は、 「お母ぁは、もっと無念だったじゃぁ」 といって、太い縄で山姥を巻きつけると、小屋の外へ引きずって行き、谷へつき落してやったと。 とっちばれ
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9『猿地蔵(さるじぞう)』
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2011-11-10
9『猿地蔵(さるじぞう)』 ―山形県― むかし、あったけど。 むかし、あるところに爺さがおって、白い餅(もち)が大好きだったと。 この爺さが川辺りの畑に畑仕事に行ったときのことだ。 昼げに持って行った白い餅を、口のまわり真っ白にして食べて昼寝しとったと。 そしたら、そこに、猿がたくさん来たと。 「やぁや、こんな処に地蔵さまいたや。こんな処ではなく、川向うさ立てたらいいんでねか」 「んだな」 こういうと、猿たちは手車ちゅうもんを組んで、昼寝中の爺さをその上に乗せて、川の中を川向うへ運んで行ったと。 川越え猿の尻(へんのこ)こ濡(ぬ)らすとも 地蔵の尻こ濡らすな エンヤラ エンヤ 川越え猿の尻こ濡らすとも 地蔵の尻こ濡らすな エンヤラ エンや と、川を渡って川向こうへ据(す)えたと。 「やぁや、ええ地蔵さまだ」 「銭コでも上げて拝(おが)むべや」 と、爺さ地蔵に、とこから持(も)って来たのか銭コどっさり上げて拝んだと。 猿が居なくなってから、爺さ、その銭コ、 「わしにお供(そな)えしたのじゃから、こりゃ、わしがもろぉてもええんじゃろ」 と、家に持って帰ったと。 婆さと二人で、その銭コ拡(ひろ)げていると、そこへ隣りの欲張り婆さがやって来たと。 「あれ、あれ、ここの家の爺さと婆さ、なしてこんげに銭コ儲(もうけ)けたや」 「んだな、あれや、爺さが白い餅、口のまわり真っ白にして寝てたれば、猿たちが来て、地蔵さまどんだって、銭コ上げて拝んでったので、その銭コ貰(もら)ったなよ」 これを聞いた欲張り婆さ、急いで家に戻ると、 「爺さ、爺さ、白餅持って畑さかせきに行け。ほして、口のまわりを白くして寝とれや」 とて、爺さが行くとも言わないのに、むりむり追いやったと。 隣りの爺は、しかたなく畑へ行って、口のまわり真っ白くして昼寝しとったと。 そしたら、猿たちが来たと。 「あら、ら、こげなとこさ、まだ地蔵さまいたや。向うさ持って行くべ」 とて、手車組んで、 川越え猿の尻こ濡らすとも 地蔵の尻こ濡らすな エンヤラ エンヤ 川越え猿の尻こ濡らすとも 地蔵の尻こ濡らすな エンヤラ エンヤ と、川向うへ連れていったと。 すると隣りの爺さ、その掛け声がおかしいやら、手車しとる猿の手の毛がくすぐったいやらで 「へ、へ、へ、へ」 と笑ったと。そぉしたら、屁がプッと出たと。 「あら、ら、ら、これぁ、地蔵さまでねぇ。どこかの爺さだ。さぁさ大事(おおごと)した。早く、ぶん流してやれ!」 と、川にほうり投げたと。 隣の爺さ、流されて銭コ儲けるどころでない。ようやっとのことで川から這(は)い上って来たと。どんべからんこ、ねっけど。
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8『鳥(とり)とケモノの戦争(せんそう)』
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2011-11-10
8『鳥(とり)とケモノの戦争(せんそう)』 ―広島県― なんと昔があったげな。昔にの、狸と狐が山を歩きよったら鶯の巣があったんで、 「ええっ!こがあなもの壊(こわ)してやれ」 ちゅうて、足で蹴散らかしてしもうたげな。 そん中にゃぁ卵が三つあったが、それもみな潰(つぶ)れてしもうたげな。 親の鶯がその様子を見て、よっぽど腹ァ立てたり悲しがって、鳥の王様の鷲(わし)のところへ行っての、仇(あだ)ァとってもらいたい言うたげな。 鷲は、ケモノの大様のライオンのところへ行っての、言うたげな。そしたらそこへ狸と狐が呼び出されたげなの、狸と狐は自分らが悪いとは言われんで、色々考えて鳥の方が悪いように嘘を言うたげな。 そこでとうとう、鳥とケモノが戦争をすることになったげな。 ケモノの方じゃぁ、みんなが集まって作戦の相談ぶつことになったげな。 そのことを知った鳥の方じゃあ、一番小さい蚊(か)を偵察(ていさつ)にやったげな。蚊が三匹柴(しば)の葉の裏にとまっての、聞きよったら、 「狐どんは考えがええけぇ、あれに指図(さしず)をしてもらおう。そいで、狐が尻尾を上げたら進め、尻尾を下ろしたら後へ引け」 ちゅうことになったげな。 蚊がそのことを聞いて戻ったら、今度ぁ鳥は、蜂に頼みに行ったげな。そして、 「狐が尻尾を上げりゃぁその根元のところをチカッと刺してやれ、尻尾を下げるときにゃぁ背中を刺してやれ」 ちゅうて頼んだげな。 いよいよ戦争になったげな。 ケモノ方(がた)じゃぁ狐が指図するんだが、”やれ今だ"と進ませよう思うて尻尾を上げりゃぁ、蜂が来て根元を刺すもんじゃけぇ、痛(いと)うてかなわんで下ろすし、後(うしろ)へ引かしょう思うて尻尾を下ろしとっても背中を蜜が蜂が刺すんでの、蜂を追っぱらおう思うて尻尾をあげるげな。 そがあなこたぁ皆は知らんけえの、狐の尻尾を見とって、進んだり引いたりするんじゃがの、めちゃめちゃで、どうもええことにならんげな。 そんなんでの、鳥が勝ったりケモノが勝ったりしょったげな。 そんときコウモリがの、ケモノが勝ちそうなときにゃぁ、 「おれは足ィ四本あるし、乳が子供育てとるけぇ、おれケモノの仲間だ」 ちゅうて、ケモノ側につき、鳥が勝ちそうなときにゃあ 「おれは羽根あるけえ鳥だな」 ちゅうて、今度ぁ鳥側につき、強い方ばかり味方するげな。 その内、いつまで経(た)ってもきりがつかんけえ、はぁ、戦争やめようちゅうことになっての、喧嘩(けんか)の元(もと)がなくなるように動き廻る時間を決めたげな。 鳥は鳥目ちゅうての、夜目がきかんもんじゃけえ、日中(にっちゅう)動くことになり、ケモノは夜目がきくもんじゃけえ、主(おも)に夜動くことになったげな。 ところがコウモリは、あっち付きこっち付きしたもんじゃけえ、鳥からもケモノからも 「お前なんか、おら方の仲間でない」 ちゅうて毛嫌いされたげな。 それでの、仕様がないけえ、夕方わずかだけ出よって虫ィ食(く)いようげな。 それじゃけぇ、強い方ばっかり味方して、あっちつき、こっちつきするのを<コウモリみたいだ>ちゅうて、今でも言うげな。 もうし、昔けっちりこ。
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7『山伏(やまぶし)と軽業師(かるわざし)と医者(いしゃ)』
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2011-11-10
7『山伏(やまぶし)と軽業師(かるわざし)と医者(いしゃ)』 ―長崎県― むかし。山伏と軽業師と医者が同じ日に死んだ。 三人そろって極楽の方へ歩いて行くと、おっそろしい顔をした閻魔(えんま)様が、大岩の上に座っていて、 「勝手に極楽へ行ってはならん。取り調べをする」 というて、山伏に、 「お前は何の仕事をしていた」 「私は山伏をしていました」 「そうか、お前はいいかげんなお祈りをして、金を取っていたな。地獄へ行け―。」 というた。次に軽業師に、 「お前は何の仕事をしていた」 「私は軽業師をしていました」 「そうか、お前は人の目をごまかして、金を取っていたな。地獄へ行け―」 というた。そして、最後の医者に、 「お前は何の仕事をしていた」 「私は人のためになる医者をしていました。」 「そうか、お前は病人になおらない薬をたくさん飲ませて、金を取っていたな。地獄へ行け―」 こうして、閻魔様は手下の鬼たちに命じて、三人共地獄へおとした。 地獄では、釜の中のお湯がグラグラ煮たっていた。鬼たちが三人を釜の中に入れようとすると、山伏が、 「な―んも心配いらん」 というて、 「ナム、クチャクチャ、アビラウンケン、ソワカ」 と、唱えると、お湯が丁度いい湯かげんになった。三人はお湯の中で、歌を歌い始めた。 それを見ていた鬼たちはたまげて、さっそく閻魔様に報告をした。そうしたら、閻魔様は怒って、 「よし、それなら、針の山へつれて行け―」 と、鬼たちに命じた。 三人は、針の山へつれて行かれたが、今度は軽業師が、 「な―んも心配いらん」 というて、綱(つな)を出し、 「ハッ」 と、掛け声をかけると、軽業師の体は宙に浮いた。山伏と医者は、軽業師の肩の上に乗り、なんなく針の山を越えることができた。 鬼たちがまた、閻魔様のところへ報告に行くと、閻魔様は、赤い顔を増々赤くして、 「それでは最後の手段だ。わしが三人を呑んでやるから、ここへつれて来い」 というた。三人が来ると、閻魔様は、ゴクリと、三人を一呑みにしてしまった。 そうしたら、医者が、 「な―んも心配いらん」 というて、閻魔様のお腹の笑うすじをちょっとひっぱった。すると、閻魔様は急に 「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハ」 とお腹をかかえて笑い出した。医者が、今度は、泣くすじや怒るすじを次々に引っぱったからたまらん。閻魔様は泣いたり、怒ったり、笑ったり、てんてこまいだ。 しまいには、三人をはき出して、 「ええい、こんな悪い奴らは、地獄においておけん。さっさと極楽へやってしまえ」 とさけんだ。 それで、三人は悠々と極楽へ行くことができたそうな。 こるばっかる ばんねんどん。
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