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人生山あり谷あり。
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86    2-31『蟹(かに)の恩返し』 댓글:  조회:3010  추천:0  2011-11-13
2-31『蟹(かに)の恩返し』   ―山形県―    昔、あるところに一人の爺様(じさま)がおって、前千刈(まえせんかり)り、裏千刈(うらせんかり)りの田地(でんち)を持っておったと。  その爺さまに一人の気だてのいい娘がいたと。  娘は毎日、鍋釜(なべかま)を井戸で洗うのだが、そのたびに、井戸に住みついた沢蟹に、洗い落としたご飯粒を与えて河愛がっていたと。  ある春のこと。 娘の家では大勢の田植え人を頼んで、田植をしたと。  娘は田植の小昼飯(こびるめし)に、黄な粉をまぶした握り飯を作ったと。稲の穂が黄な粉みたいに黄金色に稔るように願がってだと。  その握り飯をひとつ、井戸の蟹へ呉れてから田んぼへ持って行ったと。  そしたら、田の中道(なかみち)で、大っきな蛇が通せんぼしたと。そして、  「オレの嫁になんねえと、田に水をかけてやんねぇぞぉ」 というのだと。  娘はびっくりして、  「おっかねちゃぁ、誰か助けてけろやぁい」 と叫んだと。が、誰も来ない。しかたない、握り飯を投げつけて逃げ帰ったと。  大蛇は、その握り飯をストンストン、みんな呑み込んでから、  「今度(こんだ)ぁ、あの娘ば呑む番だ。待で、待でぇ」 といって追っかけて来たと。  爺様、娘の語る訳聞(わけき)いて、すぐ、蔵の中の石の唐櫃へ、娘をわらわら隠したと。  追っかけて来た大蛇は、火ィみたいな赤い舌をペロラペロラ吐いて、  「やい爺様、ここさ娘が逃げて来たべ。隠したて、だめだ。オラすっかり分ってんだ」 といって、すぐに蔵の中の唐櫃を見つけて、グルリ、グルリ七周り半も巻きつけたと。   石の唐櫃が熱(ねつ)もって来て、中から、  「あっついちゃ、あっついちゃ。助けてけろや―い」 と、娘の叫けぶ細い声が聞こえたと、爺様が、  「やめれ、やめれ」 と、おろおろしてたら、井戸から、大っきな蟹が出て来て、ガサラ、ガサラ蔵の中へ入って行ったと。  そして、大っきなハサミで、大蛇をバッキン、バッキン切りにかかったと。  大蛇も蟹にからみついて、ギリギリ締める。  バッキン、ギリギリ。ギリギリ、バッキン。  大っきな蟹と、大っきな蛇が、全力かけて戦ったと。  そのすきに、爺様は娘を石の唐櫃から出して、逃げたと。  戦いは蛇が負けて蟹が勝ったと。  したが、蟹もくたびれ切ってハァ、ついに死んでしまったと。  爺様と娘は、「カニ観音」をつくって、その蟹を祀(まつ)ったと。  こんなことがあるから、弱い生き物をも大事にしなければならかいもんだと。  「なさけは、ひとのためならず」 ってな。  ドンピン、サンスケ、猿の尻(けつ)。
85    2-30『親孝行(おやこうこう)な娘(むすめ)』 댓글:  조회:2933  추천:0  2011-11-13
2-30『親孝行(おやこうこう)な娘(むすめ)』   ―新潟県―    むかし、あるところに貧乏なおっ母(か)さんと娘とが暮らしておったと。  娘は未だ年端(としは)もいかない子供であったが、身体(からだ)の弱いおっ母さんになりかわって、毎日人(ひと)さんの所へ行って草取りしたり、手間取りしたりしては駄賃をもらい、薬を買ったり、食べ物を買って、その日その日を暮らしていたと。  そのけなげな親孝行ぶりが評判になって、お城にいる殿様の耳にも届いたと。  殿様は、  「今どき珍らしい話だ。年若な娘らしいが、何ぞほうびをとらせてやりたい。誰ぞ行って確かめて来い」 と、家来に言うたそうな。  家来は早速その村へ行って、いろいろ訊(き)いてまわったと。  そしたら、その評判は大(たい)したもので、誰も彼もが口々にその娘を誉める。  家来は我が事のように嬉しくなって、  「こりゃ、早ようその娘を見たいものだ」いうて、その母娘(おやこ)の住んでいる家に行ったと。  そして、障子の穴からソロッと中の様子をのぞいたら、調度、晩ご飯どきだった。  よくよく見ると、母親は黒っぽい妙なご飯を食べているし、娘はというと白いご飯を食べている。  「はあて、見ると聞くとでは大違い。こりゃ、あべこべだ」 と思うて、なおも見ていたら、娘はご飯を食いあげると食事の後かたずけもしないで、母親はまだ湯を飲んでいるのに、さっさと夜具の中に入ってコロッと寝てしもうた。  家来は、この娘は評判負けのする親不幸な子だな、けしからん。とおこりながらお城に戻ったと。  そして殿様に、  「とんでもない話でした。家の内と外では大違い。病人の母親には黒い妙なご飯を食わせ、自分じゃ、白いご飯を食べていました。おまけに、母親がまだ食べあげないうちに、夜具の中へ入ってゴロッと寝て、起きて来なかったです」 と申し上げた。  「そうか、それがまことなら評判とはあべこべの話だ。ほうびどころでない。そんな娘は罰しなければならぬの。明日にでも召し出せ」いうたと。  次の日、娘はお城に召し出されて来たと。 殿様直々に、  「お前は、母親に黒い、まずそうなものを食わせ、お前は白いご飯を食うていると言うが、それはどういうわけだ」 と訊(き)いたと。そしたら、娘は、  「おら家は貧乏だずけ、米の飯(めし)は食べらんねぇ。病気のおっ母ぁが少しでも力がつくように、おっ母ぁには粟の入ったご飯を食ってもらって、おらは、豆腐のオカラを分けてもらって来て食べているがんです」 と答えたと。  「それじゃあ、母親がまだご膳が終えないうちに、お前は夜具の中へ入って寝るというが、それはどういうわけだ」  「はい、それは、おっ母ぁが寝るときに冷たいから、おらが早う入って寝ていれば、夜具が温(ぬく)まる。温もったどこへおっ母ぁが寝れば、夕(ゆう)さり寒いって言わんで寝られるいに。それで、おらが早よ食べて、ほして夜具を温めるがんだ」  「う―ん、その黒いのは粟飯であったか。お前の食った白いのはオカラであったか。う―ん、毎日そうしているのか」  「あい、とても米が買いきれねぇすけに、そうしています」  「う―ん、夜具も、お前があっためて親を寝かすんだな」  「あい」  「う―ん、けなげなことよのう、のう皆の者」 いうて、涙を流したと。  「よしよし、明日から、お前はオカラを食べないでいいようにしてやるぞ」 というて、ほうびをくれたと。  そのほうびで、母親と娘は一生米の飯を食って暮らせるようになったと。  これで息がひっさけた。  
84    29『娘(むすめ)の骸骨(がいこつ)』 댓글:  조회:2631  추천:0  2011-11-13
29『娘(むすめ)の骸骨(がいこつ)』   ―岩手県―    むかし、あるところに、手間賃(てまちん)を取ってその日暮(ひぐら)らしをしている爺(じい)があったと。  今日は四月八日お釈迦(しゃか)さまの誕生日(たんじょうび)だから、家でゆっくり休もうと思っていると、急に用を頼まれた。ここが手間取(てまど)りのつらいところ、断わると次の仕事がもらえなくなる。爺は、ゆっくり呑もうと思って買った一升ビンを下げて、用先に出かけたと。  その途中で、広い野っ原にさしかかった。  天気もよし、疲れもしたので、この辺で一杯やろうと思って、いい塩梅(あんばい)の石を見つけて腰をかけたと。  さて呑もうと思ったら、すぐ足もとに一つの骸骨(がいこつ)が倒れてあった。爺は、  「これはこれは、いかなる人の骸骨だか知らぬが、ちょうどええ。お前も一杯やりなされ」 と言って、その骸骨にも酒をそそぎかけ、自分も呑み、唄など歌ってから、  「これでよい、これでよい、ああ面白い」 といって、そこを立ち去ったと。  用を終えて帰り路にその野っ原を通ったのは、すでに暮れ方であったと。少しでも薄明(うすあか)りのあるうちに家に帰り着きたいものだと思って急いでいると、後ろから、  「もし、爺さま、ちょっと待って下され」 と呼ぶ声がした。 振り返って見たら、十七、八の美しい娘が立っていたと。その娘は、  「あの、今日は爺さまのおかげで、本当に楽しかった。お礼をしたいのでここで待っていました」 という。爺は、  「はて、こんな美しい娘に知り合いは無いし、おかげさまでなんぞ、言われるような事もしとらんし、さては、これは狐だな。狐にばかされる時とは、こんな時分だ。こりゃ油断ならん」 思って、  「姉様、お前は何だ」 と言うと、娘は、  「爺さま、よく聞いてください。私は三年前のちょうど今頃、ここで急痛になって死んでしまった者です。この月の二十八日は、私の三年忌に当り、法事がありますから、その日は、何用あってもここへ来ておくれ」 と言う。爺は、  「はは―ん。さては、あの骸骨であったかと思い至って、  「あいわかった」 と約束したと。  さて、その二十八日が来た。  爺は半信半疑(はんしんはんぎ)で、野っ原に行った。  すると、娘は約束たがえず待っていたと。  娘に連れられて行くと、ほどなく隣り村に出て、大きな構えの家に着いた。  その家には村人が多勢寄り集まっていたと。  爺は、  「俺れは、とても入れぬ」 というと、娘は、  「私の着物の裾(すそ)を持って下さい」 という。  爺が娘の着物の裾をつかむと、誰にも見つけられずに家の中に入れたと。  仏壇の間に座らされると、酒が供えられた。娘はそれを爺に呑めとすすめた。本膳が置かれると、それも食べた。  屋敷の人々は、仏の前の供物がいつの間にか無くなるので不思議でたまらないのだと。  やがて、お膳を下げる段になって、一人の女中が皿を落として割ったと。  そしたら主人(あるじ)は、ひどく小言を言った。  それを聞いた娘は、  「こんな騒ぎを見るのはいやだから行きます」 といって、出て行った。  娘が立ち去ると同時に、爺の姿が皆に見えて来たと。みんなはびっくりして、爺に屋敷に居る訳を聞かれたと。  爺は、これまでの一部始終を語ったと。  主人をはじめ、一同が驚ろいて、  「それは、間違いなく家の娘だ。ぜひ、その野っ原へ案内してくだされ」 と頼まれ、みんなをつれて野っ原へ行き、娘の骨を見つけて、また戻ったと。  そして法事をやりなおして娘の魂を慰めたと。  爺は、その家からたくさんのお礼をもらって、一生安楽に暮らしたと。  そればかり。
83    2-28『猿蟹合戦(さるかにがっせん)』 댓글:  조회:3177  추천:0  2011-11-13
2-28『猿蟹合戦(さるかにがっせん)』   ―秋田県秋田市保戸野―   むかしむかし、猿(さる)と蟹(かに)といてあったど。  あるとき、猿が蟹さ、  「蟹、蟹、二人して餅(もち)コ搗(つ)がねがぁ」 いっだど。そしたら、蟹も搗くどて、粉こと臼持って山さ登っだど。そして二人して代り代り餅コを搗いだど  餅コ出来る頃になったら、猿がずるい考え起して、この餅コ一人で食ってやるべどて、臼を、  「ボ―ン」 て、ひっくり返(け)えして、下さ転がしてしまっだど。  「わぁっ、大変だ、大変だ」 どて、どんどん追っかけて行ったど。蟹も、  「あぇっ、やぁ仕方ねでぇ。おしいな」 どて、泣きながら、追っかけで行ったど。  そしたら、途中の藪(やぶ)さ 餅コ べったり付いてあったど。  「あぇ 良(え)がた」 どて、蟹がその餅食っていだら、そこへ猿が来て、  「臼の中には何も無(ね)ぇがった。おれにも食わせて」 いったら、蟹が、  「お前 臼の中さ入ってあったのを探して食えば良(え)ねが」 いったど。そしたら猿がおこってしまって  「ンだか。そんなことなら、これがら山中(やまじゅう)の猿を連れて来て、蟹の甲羅(こうら)、みんなはがして呉(け)るから」 とて、山さ行ってしまったど。   そのあとで、蟹が一人で、  「オエ―ン オエ―ン」 で 泣いでだら、橡(とち)の実(み)が、  「蟹、蟹、なして泣いでる」 て、聞いたど。蟹がその訳をしゃべったら、橡の実が、  「泣ぐな、泣ぐな。おれ助けてやるがら」 いったど。  そごさ、また峰と牛(べこ)の糞(くそ)と臼が来て、みなして蟹を助けることになったど。  それで臼は土間に梁(はり)の上さ、牛の糞は庭の隅さ、橡の実は囲炉裏の中さ、蜂は水瓶の蔭さ、蟹は家の中さ隠れだど そしたら、ちょうどそこへ猿が来て、  「蟹、どこさ行っだ。出て来(け)ぇ」 いったど。そして囲炉裏さまたがって、   「ああ寒び、寒び」 て、チンチン(がまこ)あぶり始めだど。そしたらその時、  「ド―ン」 て、橡の実はねて、猿のチンチン丸焼けにしたど。  「熱(あつ)でぁ、熱でぁ」 とて、庭の水瓶で冷すどて、そばさ行ったら、蟹に、  「ジャキン」 て、はさまれだと。  「あぁ 痛ででぁ 痛ででぁ」 いってるどこに、今度(こんだ)ぁ、蜂に、  「ギチャッ」 て、ほっぺた刺されで、あわくって逃げる拍子に、牛の糞で、  「ジデ―ン」 て、すべってひっくり返ったど。  そこさ、土間の梁がら臼が、  「ドシン」 て落ちできて、猿は潰されてしまったど。 とっぴん ぱらりのぷう。
82    2-27『雁(がん)の恩返(おんがえ)し』 댓글:  조회:3084  추천:0  2011-11-13
2-27『雁(がん)の恩返(おんがえ)し』   ―岩手県―    昔あったと。津軽の国、今の青森県の津軽半島に十三湖(じゅうさんこ)という大きな湖があって、そのそばに、一人の爺さまが住んでおったと。  ある冬の吹雪の夜、爺さの家の戸をトントンと叩く者があったと。爺さが、  「はいはい、いま開けてやるで」 というて戸を開けてやったら、一人の娘が雪まみれで立っていたと。  「あれまぁ、この寒いのに、早く入(へえ)れ、さあさあ」 というて、娘を家の中に招じ入れ、囲炉裏の火を燃やしてあたためてやったと。  「お前(め)、足を痛めていなさるか」  「はい」  「この吹雪だで、今晩ここさ泊っていけばいい」  「ありがとうございます」  「ほれ、できた。この魚汁はうめえぞう」  爺さが温(ぬく)めた魚汁を椀に盛ってやると、娘はうまそうに食べたと。  腹もふくらんだし、身体(からだ)も温もったし、娘は囲炉裏のそばで、安心しきって眠ったと。  真夜中になって、爺さが、風邪でも引かせちゃなんねえ、と思ってそおっと起きて見たら、なんと、娘は鳥(とり)の雁(がん)であったと。  「そうであったか、湖が凍って、何かのはずみで足に怪我をしたのじゃろ、治したい一心で娘に変化して来たか。あわれじゃのう。大事にしてやるべ」  爺は娘の足に薬をつけてやったと。  吹雪は、その夜から五日も六日も吹き荒れたと。爺さは娘に、  「ええ、ええ、怪我が治るまでいつまででもおるがええ」 というたと。  それからまた、雪が降ったり止んだり、お日様が照ったり曇ったりをくり返して、ようやく春めいて来たと。  そんなある日、娘が、  「お爺さん、ながながお世話になりました。おかげで足もすっかりよくなりました。もう旅をしても大丈夫ですから、おいとましようと思います」 というた。  「そうか、行くか」 と、爺さがさみしそうな顔をすると、娘もかなしそうな顔で、  「実は、私は、雁です」 というた。  「知っとった」  「そうでしたか・・・。このご恩は忘れません」  こういうと娘は思い切るように鳥の羽バタキのように両手を動かした。するとたちまち雁になって舞い上がったと。  そして、爺さの家の上を三遍まわって、それから空高く北の方へ飛んで行ったと。  日が経(た)って、春が過ぎ、夏が来て、秋になったと。  十三湖に、また、雁がいっぱい飛んで来るようになったと。  爺さは毎日空を眺めて、娘の雁を思い出しておったと。  ある日、一羽の雁が、列から離れて爺さの頭の真上に飛んで来たと。  そして、包みのようなものを落としたと。  爺さが拾ってその包みを開けたら、砂金の粒がぎっしりつまっていたと。  娘の雁の恩返しであったと。  とっちぱれ。    
81    2-26『錦絵(にしきえ)の姉(あね)さま』 댓글:  조회:2815  추천:0  2011-11-13
2-26『錦絵(にしきえ)の姉(あね)さま』   ―青森県―    むかし、あるところに貧乏な婆(ばあ)さまと伜(せがれ)が住んでおったと。伜がその日その日の手間取りに歩いて、わずかな手間賃をもらって暮らしておったと。  ところがそのうちに婆さまが寄る年波に勝てずに死んでしもうた。  そうしたら、伜は、食事の仕度や、洗濯や、何事につけても不自由この上ない。  嫁をもらいたくても金は無し、わびしい一人住いをしておった。  あるとき、手間取りに行った家の庭に、きれいな姉さまを画いた錦絵が落ちていた。伜はそれを拾うて来て、家の壁に貼った。  そして、仕事から戻ると、その日一日の出来事を錦絵の姉さまに、まるで生きている人に話すように語って聞かせていたと。 ある日のこと、伜が夜になって戻ったら、家の中はきれいに掃除がしてあった。囲炉裏には火がおきて、湯が沸いている。食事の仕度も出来ていて食べるだけになっていたと。  「はて、いってぇ誰がしてくれたやら」  不思議に思いながらも、その日は食べた。食べながら、壁の錦絵の姉さまに語りかけたと。  「お前(め)はいつ見てもきれいだなや。お前みていな嫁はとっても望むことも出来ないが、仕事から帰って来て、今日みていに家の中が温(ぬく)もっていると、おら、お前と夫婦になったような気分だ。はい、おごっつぉぅさん」  その夜は気分よく眠ったと。  ところが、次の日も、その次の日も、来る日くる日が家の中がきれいになってご飯の仕度が出来ている。  伜は、これはきちんと会って礼を言わなくてはならん、もし村の娘ならば嫁に来てくれろというつもりで、二階に隠れて様子を見ることにしたと。  そしたら丁度昼頃になって、家の中に一人の美しい姉さまが立っておらした。  伜は、はっとして目をこらしていると、姉さまはタスキをかけて、そこここを片づけしたり、掃いたり拭いたりした。それが終わると、囲炉裏に火を焚いて鍋に湯を沸かし始めたと。  伜が二階から下に飛びおりたら、そのひょうしに姉さまはふんわり火に飛び入(い)って、ぼおっと燃えてしもうたと。  伜はびっくりして燃えかすをよく見ると、灰には絵姿らしき形が残っていた。  「はて、どっかで見た姿だな」 と首を傾(かし)げて、何げなく壁を見た。そしたらなんと、壁に貼ってある錦絵の、姉さまのところだけが真っ白になっておった。  錦絵の姉さまは、嫁のない伜を不憫(ふびん)に思って、絵から抜け出て家事仕事をしてくれていたのだと。  伜が飛び下りたあおり風のために、かわいそうに吹き飛ばされて焼けたんだと。  絵でも何でも、いつも語りかけていると魂が入るもんなんだと。  とっちぱれ。
80    2-25『一軒家(いっけんや)の婆(ばあ)』 댓글:  조회:2753  추천:0  2011-11-13
2-25『一軒家(いっけんや)の婆(ばあ)』   ―青森県―    むかし、ある村に重兵衛という若者がおったと。  ある冬の朝、重兵衛は用事があって、隣りの町へ出かけたと。  川っぺりの道を、いくがいくがいくと、行く手の崖(がけ)っ縁(ぷち)で狐が一匹、前脚で雪をひっかいて何かを掘り出そうとしておった。  「あん狐め、ひとつびっくりさせてやろ」  重兵衛が雪玉を握って、ブンと投げたら、いい安梅に、狐の脚元にボガンと落ちたと。  狐はびっくりして跳びのいたひょうしに、崖の下の川の中にドブンと落ちてしまった。雪まじりの冷たい水の中を、犬かきやら、狐かきやらして、必死だと。  その様子がおかしいと、重兵衛は、  「おうい、まちっと、しっかり泳がんかい」とからかったと。  狐は、ようようのことで向う岸へたどりつくと、山の中へ、ガサガサ逃げて行った。  重兵衛はいい気分で隣り町へ行ったと。  昼頃には用事を済ませて、さて、その帰り道のこと。  「りゃあ、今朝の狐は面白かった。早よう帰って、村のみんなに話すべ」 と足を速めていると、あたりが、いつの間にか、うす暗くなって来た。  「どうも妙じゃ。日が暮れるまでには、まだたっぷり間があるはずなんじゃが」 「急に暗くなって、一時(いちじ)はどうかるかと思った」  「ところで婆さんはひとり住いかね」  いろいろ話しかけても婆さんは黙ってお鉄漿をつけているだけで返事をせん。気づまりだと。ヒザをかかえて、その様子を見ているうちに、薪(たきぎ)も無くなって、火がチロチロしだした。心細くなって、  「婆さん、火が消えそうだが薪はどこにあるね」 と聞いた。が、婆さんは何も言わん。相変わらずお鉄漿をつけている。  重兵衛は、そんな婆さんがだんだん気味悪なって来て、背筋がゾクッとして、ブルッと身震いしたと。  そのとたん、婆さんの目がギランと光った、いきなり、重兵衛の鼻先にぬうっと顔を突き出し、お鉄漿の歯をむき出しにして、「ケン」と噛みつきそうな声を出した。  重兵衛は魂がすっ飛ぶほどびっくりした。  思わずとびあがって、炉端にひっくり返った・・・はずだったが、なんと、崖から転がり落ちて、川の中へザバ―ンと漬かっておったと。  その時には暗闇も、家も、婆さんも消えて、あたり一面、明かるい雪景色だったと。  崖の上では、今朝の狐が、ケンケンと鳴きながら、ピョンコ、ピョンコ跳ねておったと。   どっとはれぇ。  なおも足を速めて、今朝方(けさがた)の崖の上にさしかかった時には、もう日はとっぷり暮れて、右も左も分からないほど真っ暗闇になったと。  「こう暗うなっては歩くこともならん。はあて困った」  立ち止まって、こりゃ野宿かな、と思っていると、向うに灯(あかり)が見えた。  「やれありがたい」  重兵衛は、手さぐりでその家へ行ったと。  「お晩です」  戸を開けて土間に入ると、家の中では、白髪頭の婆(ばあ)さんが一人おって、囲炉裏のそばで歯にお鉄漿(はぐろ)をつけていた。  「お晩です。こんな夜分になんだが、俺、この次の村の重兵衛っちゅう者(もん)ですだ。町へ用足しに行っての帰りなんだが、ここまで来て日が暮れた。松明か提灯があったら貸してくれめえか」  「耳が遠いのかな。   あのな、松明か提灯借りてえだ」 と今度は大きい声でいうと、婆さんは首を横に振った。  「そら困った。そんでは、申し分けねえが今夜一晩、泊めて下さらんか」  すると婆さんは、囲炉裏の火にあたれ、というふうにアゴをしゃくった。  「やあ、ありがたい」  重兵衛は炉端に寄って、婆さんと向いあって火にあたった。  
79    2-24『座頭(ざとう)の木』 댓글:  조회:2821  추천:0  2011-11-13
2-24『座頭(ざとう)の木』   ―秋田県―    昔、あったずもな。  あるどこに川の渡守(わたしもり)り居てあったど。  その年、うんと雨降って、洪水出て大変であったど。  洪水のあと、渡守り、流れてくる木を拾うどて、舟出したど。したば、向うの方がら、うす汚い物流れて来んだと。  「おや、良(え)え木っコ流れで来るねぇが」 て、待っでだば、木っコでねぐ、死人であったど。  「なんと、かわいそうだぁ」 て、引き上げだば、座頭っコだずもな。  渡守り、人っコ良え人で、自分で背負(しょ)って畠の中さ埋めでおいだど。  したば、ニ、三日経(た)って、そこから木の芽が出て来で、だんだん大っきぐなって、見た事もねぇ木、おがって来だど。隣り近所だれも、その木の名前覚えている奴(やつ)いねぇずもな。  して、その木、大木になっでしまったど。  近所の子守っコたち、  「座頭っコ埋めだば、木になった」 ど、言って歩くもんで、大した評判なって、見に来る人いっぱい居だど。  して、その木がつぼみもっだど。そのつぼみ大っきぐなって、赤だの、紫だの、黄色だの、白だのって、なんとニ尺も三尺もあるよな、大っきい大っきい花咲いたもんで、あっちの町がら、こっちの町がら、人、うんと見に来で、渡守りだば、大した銭(ぜん)コ貰(もら)って裕福になっだど。  その花っコのまん中に、座頭っコ一人ずつ居るのだど。  なんと珍らしくて珍らしくて、花っコの中皆ひとつずつ覗(のぞ)いで見たれば、太鼓たたいでる格好(かっこう)してるの、三味線ひく手つきしてるの、鐘っコ持ってるの、口開(あ)いで歌うたう様子(ようす)してるの、笛、口にあててるの、だのなんの、いろんな芸をしている格好なんだど。  それがまた評判になって、大したもんだったずもな。五十里も六十里も遠ぐの方がら見物人来だど。  やがて風っコ吹いで、その花、川の中さ落ち出しだば、三味線ひく、太鼓ただく、笛吹く、歌うして、なんと賑やかで、賑やかで、見ものだど。  ドンチャン ドンチャン ヒャララララ て、賑やかに流れて行く中で、また芸のない座頭っコ花もあっで、それだば、ズブズブ ズブズブって沈んで行ったど。  渡守だば、大した銭コもうけで、喜んでだど。  花散っだば、今度(こんだ)ぁ童(わらし)っコの欲しい物、いっぱい座頭の木さかかっでるずもな。  赤い着物、赤い下駄、赤い帯だの前垂(まえだり)だのってえナァ。童っコどもだちゃぁ上の方見で、  「ああ、おらに赤(あき)ぁ着物落ちで来ば良(え)えなぁ」て、見でれば、ゴオゥッと風吹ぐど、ヒラヒラヒラヒラって、童っコのどこさ落ちで来るど  「ああ、おら赤ぁ前垂欲しいなぁ」 て、見でれば、ゴオゥッど風吹ぐど、ヒラヒラヒラヒラって、赤ぁ前垂落ちで来るどなぁ  落ちるときにゃあ、みな、願った童っコのどこさ落ちで来るど。  これきって とっぴんぱらりのぷう。  
78    2-23『鴨鳥権兵衛(かもとりごんべえ)』 댓글:  조회:2617  추천:0  2011-11-13
2-23『鴨鳥権兵衛(かもとりごんべえ)』   ―和歌山県―    むかし、ある村に権兵衛さんという猟師がおったそうな。  権兵衛さんは、冬になったら山に入って、鴨取ったり、兎取ったりして、夏になったら川へ行ってウナギ釣ったりアユ取りしたりして、それを町へ売りに行って暮らしておったと。  ある年の冬、権兵衛さんは、鴨をいっぺんに沢山(たくさん)取る方法を思いついたと。  晩ご飯のおかずの魚を一切れ残しておいて、それを長いひもでくくって、鴨の来る山の池へ持って行ったと。  池の中へそれを浮かべておいたら、鴨がたくさん飛んで来て泳ぎはじめた。  権兵衛さん、しげみに隠れて  「はよ食え、はよ食え」 言うて、わくわくして待っとったら、なかの一羽がその魚を見つけて、ヒョイとのみこんだと。  「しめしめ、はよひれ、はよひれ」 言うて、見とったら、その鴨が食べた魚を尻からひり出したと。  「ほい、ねらったとうりになったわい」 言うて、なおも見とったら、次の鴨が来て、今前の鴨がひり出した魚をヒョイと呑んでプッとひった。三羽目の鴨が来て、また呑んでまたひった。四羽目の鴨も五羽目の鴨もそうやって、次から次へひっかかって、おおよそ二十羽もひもでつながったころ、  「よしよし、もうこんくらいでええやろ」 言うて、いきなりとび出して行って、そのひもをつかんだと。  そしたら、鴨がびっくりして、いっせいにワァッと飛んだと。  「こりゃ大変だ、逃がしてなるものか」  権兵衛さん、しっかりひもをつかんたもんだから、鴨が上へ舞いあがるのと一緒に、宙づりになって空へあがってしまった。  「大変じゃあ、大変じゃあ、助けてくれえ」 言いながら飛んで行って、高野山(こうやさん)の上にさしかかったと。  高野山には和尚さんたちがたくさんおって声を聞きつけて上を見たら、鴨と一緒に人が飛んどる。  「わあ、大変じゃ。人間がぶらさがっとる」 言うて、大騒ぎ。  権兵衛さんが、  「助けてくれえ」 言うたら、和尚さんたちが、  「よおっしゃ、助けてやるから待っとれよう」 言うて、布団を持って来た。大勢でぐるりを持って、  「ここへなあ、とびおりたらええんじゃあ」 言うから、権兵衛さん、鴨の首を一羽ずつしめたんだと。  そしたら、鴨たちの飛ぶ力がだんだん弱って、終(しま)いの鴨の首をしめた時に、ドタ―ンと下で待ち受けとる布団の真ん中に落っこちたと。  そのとたん、布団を持っとった和尚さんたちの頭が、わあっと、寄せ集まって、かち合うたと。  カチ―ンと音がして、火花が出たと。  その火で高野山が焼けたと。  おしまい チャン チャン。
77    2-22『牛になった小僧』 댓글:  조회:3001  추천:0  2011-11-13
2-22『牛になった小僧』   ―山形県―   昔トントのまた昔。  あるところに貧乏な家があって、爺(じ)さまと婆さまが暮らしておったと。  ある冬の吹雪の夜、  「ごめんなんしょ」 って、戸を開けて入って来たものがあった。  「こんな夜に誰だべ」 って、爺さまが障子をあけたら、土間に小僧(こぞう)さんが雪(ゆき)まみれで立っておった。  「旅の小僧コだども、道ィ迷って困(こま)てます。 どうぞ一晩だけ泊めでくだされ」  「あれゃ、そりゃまんずまんず大変だったな見たとおりの貧乏家(や)で、何にも無いども、火(ひっ)コばりァあっさげ、あたりなされ」 って、小僧さんをあげて、囲炉裏に招(よ)んだと。  「まんず、お湯コの一ぷくもあがって呉(け)さい」 って、出したら、小僧さん、よっぽどくたべれていたもんだから、炉ブチに寝転んでお湯をすすった。それを見た婆さまが、  「あれゃ、小僧さま、寝でで物ばあが(食)るもんでないてば」 って、言っている間(ま)に、小僧さんは一匹の可愛い黒い牛になってしまったと。  爺さまと婆さまはびっくりして、家中(いえじゅう)の仏様やら神様やらに願かけをした。したが、どう拝(おが)んでも元の小僧さんの姿にかえらない。  仕方なく、その牛を我が子のようにして育てたと。  そしたら、これがまた良く稼(かせ)ぐ牛で、爺さまと婆さまの暮らしが、たちまち楽になったと。   この隣りに、欲の深い爺さまと婆さまが居たと。  隣りの貧乏家がたちまち福々しくなったので、うらやましくてならない。わけを知りたくて知りたくて、じっとしていられない。聞きに行ったと。  「こっつの家でぁ、なじょして、こがえ福々しくなった事(ご)で。お恥(しょ)しども、いっちょ話コして呉申(けも)さい」 っていって、小僧さんが牛になった話を聞いたと。  「オラもいっちょ真似して、牛(べこ)コ儲(もうけ)てみんべ。まんず、ごめんなんしょ」 って、わらわら、家に戻って欲深か爺さまに語って聞かせたと。そしてその日から、街道を通る小僧さんはいないかと、目をきょろつかせて待ちかまえたと。  そしたら、向こうから小僧さんが一人、お念仏をとなえてやってくるのが見えた。  欲深婆さま、その小僧さんをつかまえて、  「まんず、まんず、一晩泊まって呉(けん)さい」 って頼みこんだもんだ。小僧さんが、  「先を急ぐから、出来無(できね)え」 って断るのを、無理やりおっとり込んで引きのんで、お膳に御馳走をたんと盛って、それ食え、やれ食えって、すすめながら自分も食ったと。小僧さんが、  「ごっつぉさま」 って、お礼をいうと、欲深か婆さま、  「お礼なのええがら、まず寝でござえ」 ってすすめたと。  「食って直ぐ寝っと牛になり申(もう)すがら、寝ることぁ出来(でげ)ねぇ」 って、その小僧さんが賢いことを言うもので、婆さま、気ぃもんで、  「んだら、オレ、先に寝でみっから、小僧さまも寝てござえ」 って。婆さまが寝転ぶと、ありゃまあ、すぐに年寄り牛になってしまったと。  牛になった欲深か婆さまは、一生小僧さんを乗せて、旅したと。  ドンピン、サァスケ、人の真似ざァするもんでねえ。  
76    2-21『大根むかし』 댓글:  조회:3183  추천:0  2011-11-13
2-21『大根むかし』   ―山形県―     むかしとんとんあったんだけど。  ある村で、くる日もくる日も雨降らねで、どこの家でも大根、白菜(しろな)、なんだて野菜もの蒔(ま)いたげんど、ほとんど出ね。  「困ったこと始まった。こりゃ、大根餓死(だいこんがし)だ、今年ぁ野菜餓死だ」  ほだいしているうちに、与助さんの家だけ大根一本出たんだど。  「はあ、ほんでは仕方ない、村中みんなして、そいつさ肥料掛(こやしか)けんべはぁ」 ていうわけで、馬糞(まぐそ)とか人の下肥(しもごえ)とか、いろいろな肥料をかけだんだど。  ほうしたれば、おがるおがる。おがってしまって、はあ、銀杏(いちょう)の木みたいに太(ふ)っとぐなってしまったんだどはぁ。  「はぁ、このあんばいでは、村中で食っても大丈夫だ」   いよいよ大根引きの季節になったもんだから、村中して、そいつさ橋綱(はしづな)かけて、  橋綱っつうのは、毎年村中の人が組単位で綱打ちする、太い綱。ワラで三本よりこにして、ワッショ、ワッショって。さしわたし十センチもあるようなやつ。  その綱で大根さ引っかけて、ワッショ、ワッショって引っこ抜いた。ほして土橇(つちぞり)さ乗せて引っ張って来た。  ところが、そん時は秋で、いま少しで雪降るっていう時だから、山陰(やまかげ)で雪降(ゆきおろ)し様(さま)鳴った。  雷がゴロゴロ、ドドッて、すばらしい音たてた。  したれば、その太根が、メクメク、メクメク泣いたんだど。  「大根どの、大根どの、なして泣いだ」  「今んなぁ、大根おろし様でないか」  「いやいや、大根おろし様でない。雪おろし様だ」  「ああ、ほんでえがった。あの音ぁ、大根おろし様だと思って、おれぁぶったまげた」  「したども、しゃべることの出来る大根では、食うことは出けん。村の広場さ置くべはぁ」 って、村の広場さ置いだんだど。  ほして冬になったど。  そしたら、その大根のために吹雪など、そこに止まって来(こ)ね。夏は夏で日陰になって涼むのにきわめてええ。  んだげんども、その大根が大飯食(おおめしぐ)いで、相当肥料くれねばどうもおかしげになる。  ほんでみんなして肥料して、また秋が来た。台風が来る頃でも、村にはさっぱり台風が来ねがったんだど。  んだげんども、何だか、大根を食わねぇで肥料すんのは無駄なような気ぃして、みんなしえ大根さ言うたんだど。  「大根どの、大根どの、おまえ稼(かせ)ぎもすねで寝てばりいて、毎年大きくなったて、何にもなんねんねが。この村から出て行って呉(け)ろはぁ」  だれば、大根が苦(にが)い顔したっけぁ。  大根は、みんなに追い出されて、すごすごと、どこかさ姿消したんだどはあ。  ほうしたればその年から、嵐はくる、吹雪はくる、日陰にもならね。みんなひどい目にあったんだど。  「あの大根、どこかに居ねべかはあ」 って、探したげども、その大根いねんだけどはあ。  「どこいったべ」 って、みんなで考えてみたれば、その大根に一枚の葉もながったんだど。こいつが本当の「ハナシ」だ。 どんぴんからりん、すっからりん。  
75    2-20『豆の粉』 댓글:  조회:2783  추천:0  2011-11-13
2-20『豆の粉』   ―岩手県―    昔々、あるところに、爺様(じさま)と婆様(ばさま)があったとさ。  あるとき、爺様が庭の前を掃(は)いていると、豆コが一つ、隅(すみ)から、ころころころと転がり出はった。  その豆を前にして爺様は、  「婆様ナ婆様ナ、豆コ一つ見つけたが、なじょにすべ。庭の隅コさでもまいておくべか」 と婆様に語(かた)った。  「はて、庭の隅コは、食いしんぼうな鶏が来てほじくり申す」 と婆様が心配するので、  「ほんだら小屋コさ入れてしまっておいたらよかべ」 といった。  「小屋コもいいが、大きなネズミが出申(でもう)す」  「はてさて、そんだらば板の間さ置くから桝(ます)コ持って来い」  「爺様ナ、爺様ナ、板の間には目んむの黒い猫がいて、つんまりさんまり、ひっぱり申す」  爺様はいよいよ困って、  「この上はいっそうのこと、豆の粉にしてとって置くべや」 といって、鉄のほうろくに入れて煎(い)りこがした。  煎るが煎るが煎るうちに、小んまい一粒の豆コがかがみ餅(もち)ほどにふくれて、鉄のほうろく一杯(ぱい)になった。  石臼でひくには大きすぎるので、臼に入れて、どんがらやい、どんがらやい、どんがらやいと搗(つ)いた。搗くが搗くが搗くほどに、黄粉(きなこ)が五升桝でも計(はか)りきれないほど出来た。  「婆様ナ、婆様ナ、黄粉が出来たので隣さ行ってフルイを借りて来い」  「俺(おら)、嫌(やん)だ。履(は)いでぐ物ないから、俺、嫌だ」  「ほゆごと言わねで、草履(ぞうり)でも足半(あしなか)でも履いで行け」  「足半履げばピチャン、ピチャンていう。草履ば履けばスタパタって駄目だもの」  「そんだらば足駄(あしだ)でも履いで行けばよかべ」  「足駄を履けば、カラコロ音する」  「そんだらばフルイはいらね。これで間に合わせべや」 と、爺様はふんどしをはずしてフルイにかけたと。  さて、豆の粉にはしたが、またまた置き場所に困ってしまった。  「爺様ナ、爺様ナ、台所さ置けば、いたちコぁ見つけべし。板の間さしまえば、黒い猫が見てるべし。なじょにしたらよがべなし」と、婆様は、桝に入れた豆の粉を持って、うろうろしているので、爺様は、  「えじゃ、えじゃ、おれの寝床の中さ入て置け」 といった。  晩げになって、爺様は大切な大切な豆の粉を抱いて寝申したが、夜中に、大きな屁をばひとつ、ぼんがらやっと、ぶっ放(ぱな)した。その勢いで、豆の粉たちァ、  「はあ、爺様の屁っこは、臭(く)せじゃ。ほんが、ほがほが」 と、みんな吹っとんで、婆様の尻のとこさ行って、ひっついた。  これを見た、食いしんぼうな鶏だの、大きなネズミだの、いたちコだの、目ん玉のまっ黒い猫だのが、ぐぁら、ぐぁらと駈(か)けて来て、  「そりゃ、黄粉たちゃ、塩っ辛くなるでば。ほい、ほい」 と、婆様の屁っぺたについた黄粉ば、ぺちゃくちゃなめてしまったとさ。  これも天保(てんぽ)※のはなしだと。 ※天保:てんぽう、または、てんぽ。ほらの意。  
74    2-19『土佐(とさ)のエンコウ』 댓글:  조회:2891  추천:0  2011-11-13
2-19『土佐(とさ)のエンコウ』   ―高知県―    土佐では河童のごとをエンコウといいます。  エンコウは、川が大きな淵(ふち)になっているところに棲んでいて、夜になると岸へ上(あが)って歩き回ります。  エンコウの歩いたあとは、何とも言えない嫌(いや)な生臭い匂(にお)いが残っていますのですぐ判ります。  春光には田のねりたてのに足跡が残っていることもあります。  この足跡は人間の子供の足跡とよく似ていますが、人間の足跡は、きびすと足ゆびのところの幅が三角形であるのに、エンコウの足跡は四角ばった同じような幅の足跡ですぐに見分けがつきます。  生きた姿を見たものはありませんが、鳴き声は「ギギギギ―」とも「ギャギャギャギャ―」とも聞える気持の悪い声です。   影野(かげの)床鍋(とこなべ)の村境になる所に小さな板橋がかかっておりました。雨が降って水が出ると、この板橋は引きあげられるということでした。  これも明治二十年代のある秋の日、そろそろ稲刈りも始まろうとする頃の夕暮れです。  床鍋一の力持ちといわれる男が、仕事の帰りにこの板橋にさしかかりました。  男が橋の上から川のなかを見ますと、今まで見たこともない動物が川上の方へ向かって泳いでいきますので、  「これはエンコウにちがいない」 と思い、川原にある人間の頭ほどもある石を拾って力いっぱい投げつけました。  石はたしかに命中したようですが、暗くなってきていたので、男はそのまま家へ帰ってしまいました。  あくる日、橋の下流の方でエンコウが死んで川岸(ぎし)に打ちあげられたというので、大騒ぎになりました。   そのままにしておくと祟(たた)りがあるかもしれないというので、弓取(ゆみと)り、弓取りというのは弓に霊を呼んで語らす行者のことですが、それを呼んで占ってもらいました。  弓についたエンコウの霊は、  「おらは、この川に住むエンコウじゃ。昔からあの橋から上へは行ってはならんと言われちょったが、行ってみとうとなって行きよったら、床鍋一の力持ちの男に石を投げられて死ぬ破目(はめ)になった。これも神さまがおきめになった禁を破った罰(ばつ)よ」 と、あきらめたことを言って祟りをしませんでした。  このエンコウの死体を、たくさんの人が見物に行きました。行ってみて来た人の話によると、頭の上に梅ぼしほどの窪(くぼ)みがあり、手と足の指の間には水かきのついた此(こ)の動物はなんともいえない、嫌な匂いを放っていましたが、頭の皿のまわりには、絵に画(か)いた河童のような毛はなく、甲羅(こうら)もなかったといいます。  
73    2-18『あさこ、ゆうこ』 댓글:  조회:2916  추천:0  2011-11-13
2-18『あさこ、ゆうこ』   ―長野県―   むかし、あるところに山があって、東側と西側のふもとには小さな村があったそうな。  二つの村は、ささいな争い事が因で、もう永い間往き来をしていなかったと。  歩く者が無くなった山の道は、いつしか熊笹が生(お)い繁(しげ)って、昔、道があったことさえ分からないありさまになっておったと。  時々、道を作ろうという話が出るのだが、そのたびに、  「だども、俺ら方(ほう)が作っても、向こうが作らねえんじゃ、しょうがなかべ」 ということになって、話が消えてしまう。  両方の村人達は不便でしょうがなかったと。  そんなある年、両方の村で、とっても可愛いい女の赤ん坊が生まれたと。  東の村の子は朝方生(あさがたう)まれたのて「あさこ」 と名付けられ、  西の村の子は夕方生まれたので「ゆうこ」 と名付けられたと。  あさことゆうこはすくすく育って、やがて賢い、いい娘(むすめ)になったと。  ある日、東の村の寄り合いで、  「あさこだば、この村どころか、まんず西の村にもかなう者はなかべな」  「んだ、それだば、まんず、西の村と頓知合戦をやろうかい」  「んだ、勝ったら西の村を俺(お)ら方(ほう)の子分(こぶん)にして、山さ道を作らすだ」  「んだ、んだ」 と、こんな話がまとまった。  村の猟師が矢に手紙を結びつけて、山の頂上から西の村へ射放(いはな)ったと。手紙には、  一、何月何日(いついっか)、山の頂上で頓知合戦をしよう。   東の村からは娘一人を出す。  一、負けた方の村は、山に道を作ること。 と書いた。  この矢文(やぶみ)を受けとった西の村では、すぐに寄り合いを持ったと。  「東の村が、大口たたいて来おったわ」  「俺ら方には、ゆうこという村一番の頓知娘がおるのを知らんのじゃ。」  「これで、へえ、東の村は俺ら方の子分と決まったようなもんじゃ」 ということになって、すぐに「承知」と書いて、矢文で射返したと。  いよいよ頓知合戦の日が来た。  東の村からはあさこ一人が、西の村からはゆうこ一人が、山の頂上へ上って行ったと。  二人は頂上で出会うてみて驚ろいた姿形(すがたかたち)といい、年頃といい、そっくりだった。話し合うてみると、生まれた日まで同じだったので、すっかり仲良うなったと。そして、  「俺らたち二人で、東の村と西の村とのいがみあいを無くそ」 と知恵を出し合うたと。  両方の村では、皆々首を長くしてあさことゆうこが戻ってくるのを待っておった。  あさこは夕方になって東に村に戻ったと。  「どうだったかや」  「もちろん勝ったさ、な、あさこ」  あさこは首を横に振った。  「ん、どういうこんだ」  「頓知合戦は引き分けになっただ。それで次の勝負を決めて来た。両方の村が、明日の夜明けから一斉(いっせい)に山の頂上まで道を作りはじめ早く作りあげた方が勝つ、という方法だ」  「ようし、俺ら方の村には力持ちが多い。なあに、気を揃(そろ)えてやれば、へえ負けるもんじゃねえ」 次の朝、東の村でも、西の村でも、道作りが始まった。晴れの日も、雨の日も、村中総がかりだと。道は山の頂上に向って、グングン延びて行った。  頂上に最初のひと鍬(くわ)を振り入れたのは、東の村の・・・ではなく、西の村のではなく、全く同時だったと。  「ええい、もうちいっと早かったら、俺ら方が勝ったのに」  「そらぁ、俺ら方でも同じだべ」  出会うてしまえば、もともと気のええ村人たちだもん、いつしか心もほぐれて、山の頂上で宴会がはじまったと。酒を呑み交しながら、  「しかしまあなんだ、よくも同時に出来上ったもんださ」  「そういえば、俺ら方のあさこが、時々、ここで、お前ぇ方のゆうこと出会うておったようだが、一体ぇ、何を話し合うていたんだかなと話合うているそばで、あさことゆうこは手を握り合うて嬉しそうに微笑んでおったと。  二つの村は、それからは争いも起こさず、村人がこの道を通って、いつまでも仲よう往き来したそうな。  おしまい ちゃん ちゃん。
72    2-17『一畚山(ひともっこやま)』 댓글:  조회:2943  추천:0  2011-11-13
2-17『一畚山(ひともっこやま)』   ―静岡県―    むかしむかしの大昔、上野(こうずけ)の国(くに)、今の群馬県に、大っきな、大っきな天狗が棲(す)んでおったそうな。  こいつがたいくつすると、山奥から大ウチワをあおいで強い風を吹かせ、歩いている人を、コロッと転がせる。はたまた、長い腕をニューのばしては、後から人をつまんで、はるか遠くの山ん中へ、ポトリと置いて来たりする。その度(たび)にふもとの者たちが  「天狗に投げ飛ばされた」  「いや、神隠しだ」 いうて、大騒ぎ。  その様子がおかしい言うて、大天狗が大笑いすると、山が、ゴォーと鳴って、森の木々がパキーン、パキーンと折れる。  いや、もう、大変ないたずら好きだったと。  ある日、天にいらっしゃる神様達が集(あつ)まって相談ごとをしたそうな。  「近頃、あやつは、悪ふざけが過ぎるようじゃ」  「そうじゃ、あやつめがやったことを、人間は、「神隠し」などと言うて、わしらのせいにしとる」  「どうじゃろな、わしらが下界に下りよいように、高い山をひとつ造ってみまいか」  「それがよかろ、その山の天辺(てっぺん)から、いつも四方を見渡して、いたずら天狗を取り締まろうかい」 ということにまとまったと。  そしたら、それを耳ざとく聞きつけた大天狗が、  「おうい、そこに集まっている神達よう、わしと山造りの競争をすまいか。おれが勝ったら、お前達が造った山は壊(こわ)してしまうが、どうだ」 と、声をかけたと。  「よかろう。じゃが、お前が負けたら、お前を人間なみの背丈(せたけ)に縮めて、そこから追い払ってしまうぞ」  「ようし。勝負は、夕日が沈んでから朝日が顔を出すまでの一晩の間だ」  「よかろう」 と、いうことになって、山造り競争が始まったと。 大天狗は、夕陽が沈むとすぐに土を掘った。掘った土をモッコに入れ、ひとつ所に運んで、段々高くして行った。  どんどこ、どんどこ土を運んで、やがて、雲をグンと突き抜けたと。  「どうだ」 と、神様達の方を見ると、神様達の造っている山は、ようやく雲に届いたところだったと。  「どうだ、おれの方が高いぞ。あとひとモッコも運び上げりゃあ、よもや負けることはあるまい。どうれ、いっぷくするか」  大天狗は、秩父の山に腰を下ろし、利根川の水を両手にすくって、顔をザンブ、ザンブと洗ったと。  「やあれ、さっぱりしたぁ」 いうて、顔をあげたら、東の空が白みかけておった。  「おっと、こりゃいかん。急がにゃ」 と、あわててモッコを担いで、山の途中まで登ったときだった。急に周囲(あたり)が明るくなった。  「はっ」として、思わず後を振り返ったら、丁度、朝日が顔を出したところで、その朝日に照らされて、神様たちの造った山が、雲の上に、高く、高く、そびえたっておった。  「しまったぁ」  大天狗は、モッコの土をぶちまけて、どこかへ逃げて行ったと。  このとき大天狗が造った山が棒名山(はるなさん)で、土を採(と)ったところに水がたまって出来たのが棒名湖だ。最後のモッコをぶちまけたところを一畚山(ひともっこやま)というようになった。  神様達が造られた山が富士山で、土を採った跡(あと)の窪みが琵琶湖になったのだと。  天狗の背丈は、このあと、人間と同じ位になったそうな。  おしまい。
71    2-16『本殺(こんごろ)しと半殺(はんごろ)し』 댓글:  조회:3644  추천:0  2011-11-13
2-16『本殺(こんごろ)しと半殺(はんごろ)し』   ―山形県―    むかし、ひとりの侍が旅をしていて、山の中で日が暮れてしまったと。  真っ暗な山の中を、あっち行き、こっち行きして、ようやく一軒の山家(やまが)が見つかった。  戸を叩(たた)いたら、中から、  「戸は開きますで」 と、爺(じい)さんの声がした。  戸を開けて家の中に入ると、侍は、  「今夜一晩だけ泊めていただけまいか」 と、頼んだと。  囲炉裏端で縄をなっていたお爺さんとお婆さんは、  「ええとも、ええとも、なあ婆さんや」  「はえ、はえ、困ったときはお互いさま」  「婆さんも、ああいっとります。こんなあばら屋で、よかったらば」 と、にこにこして招じ入れてくれたと。  侍はあったかいお粥(かゆ)をごっつぉになって、次の部屋に休ませてもらったと。  旅の疲れで、すぐに眠ったが、そこは侍、真夜中ごろ、お爺さんとお婆さんのひそひそ話に、ふと眼をさました。耳を澄ますと、  「明日(あす)はひとつ、半殺しがええべか、それども、お手打ちがええべか」  「江戸のお侍さんだそうだで、半殺しがええかも知んないな、お爺さん」 といっている。  さあ、侍はびっくりした。  「これは、山賊の家かもしれん。とんだところへ泊ったもんだ」  もう眠るどころではない。刀を抱いたまま布団の中でじいっと様子をうかがっておったと。  四方八方、油断なく気を配って、すっかり気疲れした頃、朝になったと。  「はて、襲(おそ)って来るのは夜(よる)の内(うち)かと思うたが、・・・さては、油断させておいて、不意をつく気だな。そうはさせるか。」  侍は刀をいつでも抜けるように身構えて、その時を待っておった。  すると、隣りの囲炉裏端のあたりで、コトコト音がして、  「婆さんや、半殺しはまだか」  「もう少しだよ、お爺さん」 との声が聞こえて来た。  侍は肝(きも)をつぶして  「いよいよ来るか。何の、こっちから踏み込んでやる」 と、刀を掴(つか)むやいないや、パッと隣の部屋へ飛び込んだ。それへ、お婆さんが、  「 おや、お侍さん、もう起きたのかね」 と、のんびり声をかけた。  「ん?」 と思って、婆さんの手元を見ると、婆さんはしきりにスリバチで何かをかねている。  「はーて、何だかおかしな具合だな」 と、まるで狐に化かされたような顔で眼(まなこ)を点にしていると、婆さんは、  「何もないけんど、半殺しでも、ごっつぉすんべと思うてな」 といって、出来立てのぼた餅をひとつ、手に乗せて見せた。  「ははぁ、半殺しというのは、このぼた餅のことか」  侍いは、少し気が落ち着いて  「お婆さん、では、お手打ちというのは何のことかね」 とたずねると、  「はぁ、お手打ちかい。そいつは、家で作ったそばきりのこんだ。本殺しといえば餅のこんだよ」  江戸の侍は、これを聞くと一度に気が抜けて、ドシーンと腰をおろしてしまったと。  どんべすかんこねっけど。  
70    2-15『湖山長者(こやまちょうじゃ)』 댓글:  조회:3239  추천:0  2011-11-13
2-15『湖山長者(こやまちょうじゃ)』   ―鳥取県―    むかし、因幡(いなば)の国(くに)、今の鳥取県に湖山長者という大層欲深かな長者がおったと。  長者の田んぼは千町もあって、その田んぼを一日で植えるしきたりだったと。  今日が田植えという日、夜も明けぬうちから、広々とした田んぼに数えきれんほどの早乙女(さおとめ)たちがずらぁっと並んで、いっせいに植えはじめる。そりゃぁ見事なながめだったと。  ところが、ある年の田植えの日のこと。  昼時(ひるどき)に、一匹の猿が子猿をさかさまに背負うて、山から下りて来た。  それを見つけた早乙女たちが、  「あれ、猿が赤ん坊を逆さに」  「ほんに、今にも落っこちそうな」  「あれ、落ちた」  「可愛いいなぁ」 と、口々にキャー、キャーはやしたてはじめた。  すると、近くの田、遠くの田、どの田の早乙女たちも、どの田の早乙女たちも、  「何だ、何だ」 と、田植えの手をやすめて、猿を見ようとした。  このありさまに、おどろいたのは湖山長者だ。  長者屋敷の高殿(たかどの)から、  「なにをしているのや、手を休めるな」 と大声でどなった。  早乙女たちは、あわてて田に戻ったが、大勢が一せいに手を休めたもので、その日は日暮れになっても千町の田んぼを植えおわることは出来そうになかった。  日は、はや、西の山に沈もうとしていた。  長者は、赤くなったり、青くなったりしてどなり散らした。  が、どうしても日の暮れるまでに終わらないと分かると、  「ようし、こうなればお天道(てんと)さんに戻ってもらうよりしょうないわい。なんの、日の出の勢いのこの湖山長者に出けんことあるかい」  そういうと、高殿に立って、さっと金の扇をひらき、お天道さんを三度(みたび)、大きく招きかえしたそうな。  するとどうだ、西の山に沈もうとしていたお天道さんが、つっつっと糸にひかれるように、もういちど、天に戻ったそうな。  「それ、この間(ま)に苗を植えろ。一枚の田も残すな」  長者は叫びたてたと。  早乙女たちは、わき目もせずに植えていった。 そうして、ようやく田植えが終わったとき、それに合わせるように日が沈んだと。  さあ、近郷(きんごう)はもうより遠国(おんごく)にまでこの話は伝わった。  「入り日も招きかえす勢いとは、このことやで」 と、長者は大きな盃(さかずき)をかたむけて、上機嫌だったと。  次の朝、  長者は目を覚ますと、一面に緑の苗にうまった我が田を見ようと、高殿へのぼった。  のぼってみて驚ろいた。  「あっ」 と叫んだまま、言葉が出ない。  なんと、一夜のうちに、見渡すかぎりの田んぼは、池になっておった。  そして、やがて長者屋敷も湖山長者も池の中へ沈んでしもうたそうな。  この池を湖山池という。   むかしこっぽり ごんぼの葉。
69    2-14『絵(え)から抜(ぬ)け出(で)た馬(うま)』 댓글:  조회:3136  추천:0  2011-11-13
2-14『絵(え)から抜(ぬ)け出(で)た馬(うま)』   ―香川県―    むかし、あるところにお寺があって、絵のとても上手な小僧さんがおったと。  小僧さんはお経を少しも覚えようとはしないで、絵ばかり画いておるのだと。  和尚さんは渋い顔をして小僧さんに言い渡したと。  「これ小僧や、お前は、いずれはわしの代りに檀家廻りをしてお経を唱えにゃならんのだぞ。少しはお経を覚えなさい。お経を覚えるまで、以後(いご)、絵を画いてはならん」  小僧さんは、  「へえ」 と返事はするものの、さっぱりお経を練習しないで、あいかわらず、こっそり絵を画いておったと。  ある日、小僧さんは子馬の絵を画いたと。これがなかなかの仕上りで、和尚さんに見つからないように、その絵を押入れの中に隠しておいた。  ちょうど五月の麦のとり入れの頃で、村では、見渡す限りの麦畑に、風で黄色い穂波が豊(ゆたか)にゆれておったと。  ところが、この麦が毎日荒らされるようになった。  荒らされ具合を調べてみたら、どうも何かのケモノが食い荒らしていくらしい。  村の者達は、夜、見張りを置くことにしたと。そしたらある晩のこと、一頭の子馬があらわれて、麦畑に入って、盛んに麦を食い散らかしておった。  「ありゃ、子馬が麦を食うちょる。ありゃあ、どこの馬かいね」 といいながら、見張りの者が子馬のあとをつけて行くと、お寺の中へ入って行った。  和尚さんを起こして尋ねてみたと。  そしたら和尚さんは、  「うちの寺では、馬など飼うとりゃせんが」 という。  言うても子馬の足跡があるもん、  「ちょいと調べてみまいか」 というて、二人で馬の足跡をたどってみたと。  そしたら足跡は、寺の門から小僧さんの部屋へ続いとる。  小僧さんの部屋へ入ってみると、ちょうど押入れの前で足跡は消えておった。  「はあて、不思議なことよ」 と首を傾げながら、押入れを開(あ)けてみたと。そしたら、押入れの中には、まるで生きているように画かれた子馬の絵があった。  「この絵は小僧が画いたものにちがいない。それにしても見事な出来ばえの絵じゃあ」 と、つくづく見よったら、絵の中の子馬の足に泥が付いておる。  「さては、この絵の馬が抜け出たか」  和尚さんは、小僧さんに言うて、その絵にクイを画かせて子馬をつなぐようにさせたと。  それからは、その子馬は、もう絵から抜け出てこなくなったと。   さん候(そうろう)。
2-13『五月節句(ごがつせっく)の笹巻(ささま)き飯(まんま)』   ―山形県―    とんと昔、  あるところにオドとカカがあったと。  初児(はつご)子のお産が始まって、カカがウンウン唸(うな)っているそばで、オドは気ぃもめて気ぃもめてならない。  「オレ、産神様(うぶがみさま)を迎えに行って来る」 とて、子負帯(こおいおび)を持って山ふもとの地蔵堂(じぞうどう)へ行ったと。  真夜中のこととて、松明(たいまつ)焚(た)いて行ったら、雨が降って来た。  「やぁや、まだ産神様と行き会わねぇというのに、こりゃぁ困ったこんだ。はて、なじょすんべ」 とて、あわてて駆(か)けて、山ふもとの地蔵堂に飛び込んだと。  やれやれ、とて雨宿りしているうち気ぃゆるんで、ウトウトねむりかけたと。  そしたら、外に誰やらやって来たふうで、  「やぁや、地蔵様、今、村でお産が始まったから、運定(うんさだ)めに行べゃあ」 とて、呼ばる声がしたと。そしたら地蔵さんが、  「やぁや、せっかくの誘いらけんど、オラ、今夜お客様あって行きかねる。お前さん一人で決めてやってけろや」 とて返事したそうな。  「そうか、お客さんならすかたね、オラ一人で行って来んべ」 とて、外の誰やらは遠去(とおざ)かったふうだと。したが、間もなくして、またやって来て、  「やぁや地蔵さま。無事にヤヤコが生まれた」  「そらよかった。産神様や、その子の定めはどんなんですかや」  「んだ、その子は五つの五月節句までら。こりゃ、川の主さあげる命だな」  「そうか、そら御苦労さまらったす」 とて、問答して、また、遠去かって行ったと。  地蔵堂の中に行たオドは、  「はあて、今のはオラのカカの事だべか」 思うて、あわてて家に帰ったと。  家に戻ったら、オギャ-、オギャ-って、男の子が生まれておったと。  「あの神様の問答、やっぱりオラどこのことだったか」 とて、この事をカカにも話さずにいたと。  その子は五つまで何事もなく育ったけど、とうとう、気がかりな五月節句の日がやって来たと。  所の習慣(ならい)で、五月節句にゃ、魔除(まよ)けとて、屋根に蓬(よもぎ)と菖蒲(しょうぶ)を葺(ふ)いて、菖蒲湯とか菖蒲酒ってのをしたり、菖蒲鉢巻きとか菖蒲髪とか、何でもかんでも、臭い蓬と菖蒲を身に付ける。そして、若い笹の葉を取って来て、三角の笹巻(ささま)き飯(まんま)をこしらえるもんだ。  その子が笹巻き飯を持って、家の前の川で遊んでいたら、川から小童(こわらし)が出て来て、  「オレと遊ぶべやぁ」 とて、呼ぶんだと。その子が、  「笹巻き飯やるから、こっちさ来いちゃ」 言うたら、  「お前(め)、菖蒲くさくて、そばさ寄られぬ」 って言う。  「んだら、ほらやっ」 って、笹巻き飯を投げてやったら、小童の眼(まなぐ)さ刺ったと。  「痛てて、痛てて」 って、どかすか逃げて行ったと。  その声でオドが外へ出て、よおっく見たら、その小童は河童(かっぱ)だったと。  その子は、笹巻き飯で河童の難(なん)を除(よ)けて、それから、うんと長生きしたと。  五月節句の笹巻き飯は魔除けになるんだと。  ドンピン サンスケ サルマナグ。
67    2-12『梟(ふくろう)の染物屋(そめものや)』 댓글:  조회:3186  추천:0  2011-11-13
2-12『梟(ふくろう)の染物屋(そめものや)』   ―長野県―    むかし、むかしの大むかし。フクロウは染物屋だったと。  店は、たいした宣伝もせんのに、えらくはんじょうしたそうな。  朝はまた日の出んうちから、色んな鳥がやって来て、思い思いの色や模様に染めてもらっては、得意がっておった。  それを聞いたカラスは、  「そんなに評判の染物屋なら、ひとつ、わしもお願いしてみるか」 というて、やって来たと。  カラスは、その頃はまだ真っ白い身体(からだ)をしておったそうな。    「フクロウどん、わしの羽をいい模様に染めてくれや」  「いいとも、いいとも。わしの腕によりをかけてやってみんべえさ だども、カラスどんよ、しばらくの間動いちゃぁなりませんぞ。 動くと模様がうまく描(か)けませんでのう」  フクロウは筆に墨(すみ)をどっぶりとふくますと何やら模様を描きはじめた。  ところが、カラスはくすぐったくたたまらん。  フクロウが筆を動かすたびに、身体をよじる。  「カラスどん、あれだけ言うたのに、なぜ動くんじゃ。ほれ見なされ、失敗したでねえか。えい、いっそ、こうしてやる」  フクロウはカラスを真っ黒に染めてしまったと。  店先にいた池の鳥たちは、真っ黒になったカラスを見て、笑って馬鹿にしたそうな。  カラスは、  「このフクロウの阿呆たれめ、腹が立ってならん」 と怒ったが、どもならん。それからというもの、カラスは、毎日フクロウの店にいっては、  「もとの白い羽返せ」 と声高(こわだか)にさけぶんだと。  フクロウはカラスが恐くてならん。カラスの出歩く昼間は、ボロ手拭でほおっかぶりをして、木の穴の中でじいっとうずくまっているようになったと。  フクロウは夜になると、「ノリツケホッホ、ノリツケホッホ」って、一声ずつくぎって低い声で喘ぐけれど、あれは、カラスが目をさまさないようにしているんだと。  そればっかり。
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